ボルツマンの原理とは
ボルツマンの原理とは、系の微視的な状態数から巨視的な熱力学変数であるエントロピーを求める関係式です。ボルツマンの原理により、状態数 $W$ とエントロピー $S$ は次の関係があることが示されます。
$$S=k\ln{W}$$
ここで $k$ はボルツマン定数で、正確に以下の値で定義されています。
$$k=1.380\ 649\times JK^{-1}$$
ボルツマンの原理より、以下のようなエントロピーの性質が導かれます。
エントロピーの加算側
全体のエントロピーは、独立したそれぞれの系のエントロピーの合計となります。例えば、2つの独立した系 $A$ と $B$ の状態の数は、
$$W_{A+B}=W_A\cdot W_B$$
であるため、ボルツマンの原理より以下の加算則が成り立ちます。
$$S_{A+B}=S_A+S_B$$
エントロピーの増大則
全体の状態数が増えるとエントロピーは増大します。例えば、2つの系 $A$ と $B$ を合せて系 $C$ とした場合、各系が独立な場合と比べ、制限は緩くなっているため、
$$W_C\gt W_A\cdot W_B$$
従って、全体のエントロピーは元の各系のエントロピーの合計より大きくなります。
$$S_C\gt S_A+A_B$$
ボルツマンの原理を導く
まず、理想気体の断熱自由膨張による、エントロピーの変化を求めます。この場合、内部エネルギーは変化しないので、熱力学の第1法則より、
$$0=\Delta U=\int TdS-\int pdV$$
理想気体であれば温度 $T$ は一定で、体積が $m$ 倍になったとし、状態方程式($pV=nRT=NkT$)を使うと、
$$\int dS=\frac{1}{T}\int_1^mpdV=Nk\int_1^m\frac{dV}{V}$$
従って、自由膨張により体積が $m$ 倍になったときのエントロピーの変化は以下で表されます。
$$\Delta S=Nk\ln{m} -①$$
次に、体積比と状態数の関係を求めます。体積 $V$ の空間を $a$ 個の小部屋に分け、各小部屋の粒子数を $n_i$ とします。粒子の総数 $N$ の分け方の数(状態数)は、各小部屋の中の粒子は区別できないため、
$$W=\frac{N!}{n_1!n_2!\cdots n_a!} , N=\sum_{i=1}^an_i$$
この両辺の対数をとり、粒子数が十分大きい($N,n_i\gg1$)として、スターリンの公式
$$\ln{n!}=n\ln{n}-n\cong n\ln{n}$$
を使うと、
$$\ln{W}=N\ln{N}-\sum_{i=1}^an_i\ln{n_i} -②$$
現実に起こるのは状態数 $W$ が最大となる状態です。停留点の条件($\delta W=0$)を求めると、$N$ は一定であるため、
$$0=\delta\ln{W}=-\sum_{i=1}^a\ln{n_i}\delta n_i-\sum_{i=1}^a\delta n_i$$
$\delta n_i$ の総和は0であるため第2項は0となります。また、$n_i$ を一定数($n=N/a$)とすれば、第1項も0になることが分かります。従って②は、
$$\braket{\ln{W}}=N\ln{N}-N\ln{n} -③$$
体積が $m$ 倍になると、各小部屋の粒子数は $n/m$ となるため、
$$\braket{\ln{W’}}=N\ln{N}-N\ln{\frac{n}{m}} -④$$
③と④の差分をとると、
$$\Delta\braket{\ln{W}}=\braket{\ln{W’}}-\braket{\ln{W}}=N\ln{m}$$
これを①に代入すると以下が導かれます。
$$\Delta S=k\Delta\braket{\ln{W}}$$