共変微分とは
共変微分とは、曲線座標においてテンソルとなる微分です。物理法則は、座標系に関わらず成り立つものであるため、場の微分は共変微分(テンソル)で表される必要があります。
共変微分は一般にはナブラ記号 $\nabla$ で表され、クリストッフェル記号を用いて定義されることがありますが、
$$\nabla_jA_i\equiv\frac{\partial A_i}{\partial x^j}-\Gamma^k_{ij}A_k$$
本記事では、共変微分をコロン「:」で表すことにします。
$$A_{i:j}=\frac{\partial A_i}{\partial x^j}-\Gamma^k_{ij}A_k -①$$$$A^i_{:j}=\frac{\partial A^i}{\partial x^j}+\Gamma^i_{kj}A^k -②$$
ここでクリトッフェル記号は以下で表されます。
$$\Gamma^k_{ij}=g^{kl}\frac{1}{2}\left(\frac{\partial g_{li}}{\partial x^j}+ \frac{\partial g_{lj}}{\partial x^i}-\frac{\partial g_{ij}}{\partial x^l}\right)$$
ベクトルの外積の共変微分を以下で定義すると、
$$(A_iB_j)_{:k}\equiv A_{i:k}B_j+A_iB_{j:k} -③$$
添え字2つのテンソル $T_{ij}$ とスカラー $S$ の共変微分は以下で得ることができます。
$$T_{ij:k}=\frac{\partial T_{ij}}{\partial x^k}-\Gamma_{ik}^lT_{lj}-\Gamma_{jk}^lT_{il} -④$$$$S_{:i}=\frac{\partial S}{\partial x^i} -⑤$$
スカラー場に対するダランベールの方程式 $\Box V=0$ の共変な形は、
$$g^{ij}V_{:i:j}=0$$
これに①と⑤を使うと以下になります。
$$g^{ij}\Big(\frac{\partial^2V}{\partial x^i\partial x^j}-\Gamma_{ij}^k\frac{\partial V}{\partial x^k}\Big)=0$$
②を導く
③がスカラー積についても成り立つとすると、
$$(A^iB_i)_{:j}\equiv A_{:j}^iB_i+A^iB_{i:j}$$
左辺に⑤、右辺に①を代入すると、
$$\frac{\partial(A^iB_i)}{\partial x^j}=A_{:j}^iB_i+A^i\Big(\frac{\partial B_i}{\partial x^j}-\Gamma^k_{ij}B_k\Big)$$$$\frac{\partial A^i}{\partial x^j}B_i=A_{:j}^iB_i-A^k\Gamma^i_{kj}B_i$$
これは任意の $B_i$ について成り立つので②が得られることが分かります。
④⑤を導く
③に①を代入すると、④が得られることが分かります。
$$(A_iB_j)_{:k}=\Big(\frac{\partial A_i}{\partial x^k}-\Gamma^l_{ik}A_l\Big)B_j+A_i\Big(\frac{\partial B_j}{\partial x^k}-\Gamma^l_{jk}B_l\Big)$$$$=\frac{\partial(A_iB_j)}{\partial x^k}-\Gamma^l_{ik}A_lB_j-\Gamma^l_{jk}A_iB_l$$
スカラーは添え字が0個のテンソルと考えることができるため、⑤が成り立つことが分かります。
テンソルの条件
テンソルとは座標変換に対して不変となる量(物理量)で、言い換えると、位置ベクトルと同じ変換に従います。例えば、ある微小区間 $\delta x^i$ を $\delta x^{i’}$ に変換する場合、
$$\delta x^{i’}=\frac{\partial x^{i’}}{\partial x^j}\delta x^j$$
に従って変換されます。2階のテンソル $T^{ij}$ の場合もこれと同じ変換が行われるとすると、
$$T^{i’j’}=\frac{\partial x^{i’}}{\partial x^k}\frac{\partial x^{j’}}{\partial x^l}T^{kl}$$
添字が下付きのテンソルの場合は、変換係数の上下が逆になります。
$$T_{i’j’}=\frac{\partial x^k}{\partial x^{i’}}\frac{\partial x^l}{\partial x^{j’}}T_{kl}$$
反変微分はテンソルではない
ベクトル場 $A^i$ の反変微分がテンソルであるかどうかを確認すると、
$$\frac{\partial A^{i’}}{\partial x^{j’}}=\frac{\partial}{\partial x^{j’}}\Big(A^l\frac{\partial x^{i’}}{\partial x^l}\Big)$$$$=\frac{\partial A^l}{\partial x^n}\frac{\partial x^n}{\partial x^{j’}}\frac{\partial x^{i’}}{\partial x^l}+A^l\frac{\partial^2x^{i’}}{\partial x^{j’}\partial x^l} -⑥$$
このように、第1項はテンソルの変換に従いますが、余分な第2項が出てきてしまうため、反変微分はテンソルでないことが分かります。
共変微分はテンソルである
点 $x$ でのベクトル $A_i(x)$ を $dx$ ほど平行移動してもベクトルのままですが、このベクトルはクリストッフェル記号により、以下で表されます。
$$A_i(x)+dA_i=A_i(x)+\Gamma_{ij}^kA_kdx^j$$
このベクトルを点 $x+dx$ でのベクトル $A_i(x+dx)$ から引いたものもベクトルなので、
$$A_i(x+dx)-\Big(A_i(x)+\Gamma_{ij}^kA_kdx^j\Big)=\Big(\frac{\partial A_i}{\partial x^j}-\Gamma_{ij}^kA_k\Big)dx^j$$
右辺の括弧の中は共変微分の定義①になり、この式は任意の $dx$ で成り立つため、共変微分はベクトルであることが分かります。従って、共変微分は以下のように変換することができます。
$$\frac{\partial A_{i’}}{\partial x^{j’}}-\Gamma^{k’}_{i’j’}A_{k’}=\Big(\frac{\partial A_l}{\partial x^n}-\Gamma^m_{ln}A_m\Big)\frac{\partial x^l}{\partial x^{i’}}\frac{\partial x^n}{\partial x^{j’}}$$$$\frac{\partial A^{i’}}{\partial x^{j’}}+\Gamma^{i’}_{k’j’}A^{k’}=\Big(\frac{\partial A^l}{\partial x^n}+\Gamma^l_{mn}A^m\Big)\frac{\partial x^{i’}}{\partial x^l}\frac{\partial x^n}{\partial x^{j’}}$$