般若心経とは
般若心経(般若波羅蜜多心経)とは、600巻の及ぶ般若経経典(大般若波羅蜜多経)のエッセンスを、わずか262文字に凝縮した経典とされています。現在最も流布しているのは玄奘訳とされる小本系の漢訳であり、「般若心経」と言えば一般にこれを指します。
尚、現在のインドには梵語による原本は残っておらず、梵語で書かれた写本がネパールや日本にあるのみです。日本では奈良の法隆寺に梵語の写本があり、現存するものでは世界最古とされています。
空(くう)とは
本稿では、「空」を「相互関係」(=相互依存・相互作用)として解釈しています。この世の全てのものは「相互関係」として存在しており、そこに実体があるわけではないと考えます。この関係性は「因縁」とも呼ばれています。
例えば、「赤い花」は、人が「赤い色をした花」を認識しているのであり、「赤い花」の実体があるのではない。「赤い花」と呼ばれているものと、人の目(あるいは脳)との相互関係の中において、「赤い花」が存在していると考えます。
従って、この世の全ての存在には実体があるわけではないと悟ることが、その対象を正しく認識することであり、それにより偏見がなくなり、執着と煩悩がなくなり、そして迷いや苦しみから解放されると考えます。
般若心経を読む
摩訶般若波羅蜜多心経 |
偉大なる真実の智慧を得るための教え。
観自在菩薩、行深般若波羅蜜多時、照見五蘊皆空、度一切苦厄 |
観音菩薩が真実の智慧を求めて修行をしたとき、この世の全ての存在や現象は「空」である(相互関係の中で成り立ちそれ故実体があるわけではない)ことを悟り、それにより、全ての苦しみから解放された。
舎利子、色不異空、空不異色、色即是空、空即是色、受想行識、亦復如是 |
シャーリプトラよ、この世の全ての存在は相互関係に他ならず、相互関係がこの世の存在の全てであることに他ならない。この世の全てのものは相互関係で存在し、相互関係が存在の全てである。感覚も、想起も、意志も、知識も、同じように対象に実体があるわけではない。
舎利子、是諸法空相、不生不滅、不垢不浄、不増不減、是故空中無色、無受想行識 |
シャーリプトラよ、この世の全てのものは実体があるわけはないのだから、生じることも滅することもなく、汚れたものでも浄いものでもなく、増えることも減ることもない。それ故、物理的な現象ではなく、感覚も、想起も、意志も、知識もない。
無眼耳鼻舌身意、無色声香味触法、無眼界乃至、無意識界 |
眼も、耳も、鼻も、舌も、身体も、心もなく、形も、声も、香りも、味もなく、触れられず、心の対象もない。眼の対象から心の対象まで全てがない。
無無明、亦無無明尽、乃至、無老死、亦無老死尽、無苦集滅道、無智亦無得 |
迷いもなく、迷いがなくなることもない。老いも死もなく、老いと死がなくなることもない。苦しみも、苦しみの原因も、苦しみを滅することも、苦しみを滅するための道もない。知ることもなく、得ることもない。
以無所得故、菩提薩埵、依般若波羅蜜多故、心無罣礙、無罣礙故、無有恐怖 |
得るものがないから、求道者は真実の智慧を求めて修行し、心に妨げるものがない。心に妨げるものがないから、恐れるものもない。
遠離一切顛倒夢想、究竟涅槃、三世諸仏、依般若波羅蜜多故、得阿耨多羅三藐三菩提 |
誤った夢想から遠く離れて、心は永遠の平安の中に入っている。過去・現在・未来の「仏」は、真実の智慧を求めて修行し、真実の悟りを得られた。
故知、般若波羅蜜多、是大神呪、是大明呪、是無上呪、是無等等呪、能除一切苦、真実不虚 |
それ故知るべきである。真実の智慧は、大いなる神聖な真言であり、悟りの真言であり、最上の真言であり、比べるもののない真言である。全ての苦しみを取り除くことができる、偽りのない真実である。
故説、般若波羅蜜多呪、即説呪曰 |
その真実の智慧である真言は、次のように説かれた。
羯諦羯諦、波羅羯諦、波羅僧羯諦、菩提薩婆訶、般若心経 |
往ける者よ、往ける者よ、仏の国に往ける者よ、仏の悟りを得た者よ、幸あれ。ここに真実の智慧は得られた。