逆格子ベクトルとは、周期的な構造(結晶構造)をもつ物質の周期性(波数)を表すベクトルです。実空間である結晶構造の基本ベクトルに対応する、逆空間(波数空間)のベクトルとなります。
基本ベクトル
基本ベクトルとは、結晶構造の最小単位(単位格子)を表すベクトルです。結晶内の全ての原子の位置 ${\bf r}$ は、基本ベクトル(${\bf a}_1,{\bf a}_2,{\bf a}_3$)の整数倍の和として表すことができます。
$${\bf r}=n_1{\bf a}_1+n_2{\bf a}_2+n_3{\bf a}_3$$
面指数
面指数とは、結晶内の原子が並んだ平面を表す指数です。全ての原子は互いに平行で等間隔の平面の組にまとめることができます。その面が、基本ベクトルの長さの何分の1を通るかによって面指数($h_1,h_2,h_3$)が定義されます。
電子密度
原子配列の周期性のため、結晶内の電子密度も周期性を持ちます。一般に、周期性を持つ関数はすることが可能なので、1次元の場合、電子密度 $n$ は以下の形式で表すことができます。ここで、$a$ は原子間の距離、$g$ は整数です。
$$n(x)=\sum_{g=-\infty}^\infty n_g\exp{\Big(\frac{2\pi igx}{a}\Big)}$$
係数 $n_g$ は一般に複素数ですが、$n_{-g}^*=n_g$ の場合に、電子密度 $n$ が実数になります(①)。この電子密度は、明らかに周期 $a$ を持つことが分かります。
$$n(x)=n(x+a)$$
3次元の場合の電子密度は、以下で表されると考えます。
$$n({\bf r})=\sum_Gn_Ge^{i{\bf G}\cdot{\bf r}} -②$$
①の導出
$k=2\pi g/a$ と置くと、電子密度の $g$ と $-g$ の項の和は、
$$n_ge^{ikx}+n_{-g}e^{-ikx}$$$$=(n_g+n_{-g})\cos{kx}+i(n_g-n_{-g})\sin{kx}$$$$=(n_g+n_g^*)\cos{kx}+i(n_g-n_g^*)\sin{kx}$$$$=2\mathrm{Re}(n_g)\cos{kx}-2\mathrm{Im}(n_g)\sin{kx}$$
のように実数となるため、全ての電子密度の項が実数となることが分かります。
逆格子ベクトル
②の ${\bf G}$ は逆格子ベクトルと呼ばれ、以下で表されます。
$${\bf G}=h_1{\bf b}_1+h_2{\bf b}_2+h_3{\bf b}_3 -③$$
$${\bf b}_1=2\pi\frac{{\bf a}_2\times{\bf a}_3}{V}$$$${\bf b}_2=2\pi\frac{{\bf a}_3\times{\bf a}_1}{V}$$$${\bf b}_3=2\pi\frac{{\bf a}_1\times{\bf a}_2}{V}$$$$V\equiv{\bf a}_1\cdot({\bf a}_2\times{\bf a}_3)$$
尚、分母の $V$ は単位ベクトルで作られる基本格子の体積を表します。
③の導出
電子密度②が並進操作 ${\bf T}$($=n_1{\bf a}_1+n_2{\bf a}_2+n_3{\bf a}_3$)に対して不変になる、逆格子ベクトル(${\bf b}_1,{\bf b}_2,{\bf b}_3$)を求めます。並進不変性の条件は、
$$n({\bf r})=n({\bf r}+{\bf T})=\sum_Gn_Ge^{i{\bf G}\cdot({\bf r}+{\bf T})}$$
より、$e^{i{\bf G}\cdot{\bf T}}=1$ であり、$n_i$ と $h_j$ は整数であるため、 以下が成り立つ必要があります。
$${\bf b}_i\cdot{\bf a}_j=2\pi\delta_{ij}$$
まず $i\ne j$ の場合から、例えば ${\bf b}_1$ は ${\bf a}_2,{\bf a}_3$ と直交する必要があるため、${\bf b}_1=\alpha{\bf a}_2\times{\bf a}_3$($\alpha$ は定数)の形式を持ちます。
次に $i=j$ の場合から、${\bf b}_1\cdot{\bf a}_1=2\pi$ であるため、定数 $\alpha$ は以下となります。
$$\alpha=\frac{2\pi}{{\bf a}_1\cdot({\bf a}_2\times{\bf a}_3)}$$
従って、逆格子ベクトル③が得られます。