スピン角運動量とは

/量子力学

スピン角運動量

スピン角運動量は、電子の自転に相当し、原子のスペクトル線(エネルギー準位)が2重になることから仮説として提唱されました。スピン角運動量については、軌道角運動量からの類推で考えます。

軌道角運動量とは
軌道角運動量の演算子、軌道角運動量の固有値、磁気量子数を上げ下げする演算子、演算子の交換関係

軌道角運動量と同様、スピン角運動量の2乗 $s^2$ の固有値は $s(s+1)\hbar$ であると考えられますが、この場合、スピン角運動量の $z$ 成分 $s_z$ の固有値は、$s\hbar,(s-1)\hbar,\cdots,-s\hbar$ の $2s+1$ 個存在することになります。

しかし、エネルギー準位は2つしかないため、$2s+1=2$、つまり $s=1/2$ として演算子を導入します。その場合、軌道角運動量の磁気量子数に当るスピン磁気量子数 $m_s$ は、$\pm1/2$ の2つの値を持つことになります。

以下、2つのエネルギー準位を $\alpha$ 、$\beta$ と書くことにします。

$$Y_{1/2}^{1/2}\equiv\alpha=\left(\begin{array}{cc} 1 \\ 0 \end{array}\right)$$$$Y_{1/2}^{-1/2}\equiv\beta=\left(\begin{array}{cc} 0 \\ 1 \end{array}\right)$$

スピン角運動量の大きさの2乗

スピン角運動量の大きさの2乗の固有値は以下になります。

$$s^2\alpha=\frac{3}{4}\hbar^2\alpha  -①$$$$s^2\beta=\frac{3}{4}\hbar^2\beta  -②$$

これを行列で表すと以下になります。

$$s^2=\frac{3}{4}\hbar^2
\left(\begin{array}{cc} 1 & 0 \\
0 & 1 \end{array}\right)$$

①②を導く

これらは軌道角運動量の同様の式より、

$$l^2Y_l^m=l(l+1)\hbar^2Y_l^m$$

以下のように計算されます。

$$s^2\alpha=s^2Y_{1/2}^{1/2}=\frac{1}{2}(\frac{1}{2}+1)\hbar^2Y_{1/2}^{1/2}=\frac{3}{4}\hbar^2\alpha$$$$s^2\beta=s^2Y_{1/2}^{-1/2}=\frac{1}{2}(\frac{1}{2}+1)\hbar^2Y_{1/2}^{-1/2}=\frac{3}{4}\hbar^2\beta$$

スピン角運動量の $z$ 成分

スピン角運動量の $z$ 成分の固有値は以下になります。

$$s_z\alpha=\frac{1}{2}\hbar\alpha  -③$$$$s_z\beta=-\frac{1}{2}\hbar\beta  -④$$

これを行列表示すると以下になります。

$$s_z\left(\begin{array}{cc} \alpha \\ \beta \end{array}\right)=\frac{\hbar}{2}
\left(\begin{array}{cc} 1 & 0 \\
0 & -1 \end{array}\right)
\left(\begin{array}{cc} \alpha \\ \beta \end{array}\right)$$

③④を導く

これらは軌道角運動量の同様の式より、

$$l_zY_l^m=m\hbar Y_l^m$$

以下のように計算されます。

$$s_z\alpha=s_zY_{1/2}^{1/2}=\frac{1}{2}\hbar Y_{1/2}^{1/2}=\frac{1}{2}\hbar\alpha$$$$s_z\beta=s_zY_{1/2}^{-1/2}=-\frac{1}{2}\hbar Y_{1/2}^{-1/2}=-\frac{1}{2}\hbar\beta$$

スピンの状態を変える演算子

$s_\pm=s_x\pm s_y$ で定義すると、固有値は以下になります。

$$s_+\alpha=0  ,  s_+\beta=\hbar\alpha  -⑤$$$$s_-\alpha=\hbar\beta  ,  s_-\beta=0  -⑥$$

これを行列で表すと以下になります。

$$s_+=\left(\begin{array}{cc} 0 & \hbar \\
0 & 0 \end{array}\right)$$$$s_-=\left(\begin{array}{cc} 0 & 0 \\
\hbar & 0 \end{array}\right)$$

⑤⑥を導く

これらは軌道角運動量の同様の式より、

$$l_\pm Y_l^m=\hbar\sqrt{(l\mp m)(l\pm m+1)}Y_l^{m\pm1}$$

以下のように計算されます。

$$s_+\alpha=s_+Y_{1/2}^{1/2}=\hbar\sqrt{(\frac{1}{2}-\frac{1}{2})(\frac{1}{2}+\frac{1}{2}+1)}Y_{1/2}^{1/2+1}=0$$$$s_+\beta=s_+Y_{1/2}^{-1/2}=\hbar\sqrt{(\frac{1}{2}+\frac{1}{2})(\frac{1}{2}-\frac{1}{2}+1)}Y_{1/2}^{-1/2+1}=\hbar\alpha$$$$s_-\alpha=s_-Y_{1/2}^{1/2}=\hbar\sqrt{(\frac{1}{2}+\frac{1}{2})(\frac{1}{2}-\frac{1}{2}+1)}Y_{1/2}^{1/2-1}=\hbar\beta$$$$s_-\alpha=s_-Y_{1/2}^{-1/2}=\hbar\sqrt{(\frac{1}{2}-\frac{1}{2})(\frac{1}{2}+\frac{1}{2}+1)}Y_{1/2}^{-1/2-1}=0$$

また、行列では以下で表されます。

$$s_+\alpha=\left(\begin{array}{cc} 0 & \hbar \\
0 & 0 \end{array}\right)\left(\begin{array}{cc} 1 \\ 0 \end{array}\right)=0$$$$s_+\beta=\left(\begin{array}{cc} 0 & \hbar \\
0 & 0 \end{array}\right)\left(\begin{array}{cc} 0 \\ 1 \end{array}\right)=\left(\begin{array}{cc} \hbar \\ 0 \end{array}\right)=\hbar\alpha$$$$s_-\alpha=\left(\begin{array}{cc} 0 & 0 \\
\hbar & 0 \end{array}\right)\left(\begin{array}{cc} 1 \\ 0 \end{array}\right)=\left(\begin{array}{cc} 0 \\ \hbar \end{array}\right)=\hbar\beta$$$$s_-\beta=\left(\begin{array}{cc} 0 & 0 \\
\hbar & 0 \end{array}\right)\left(\begin{array}{cc} 0 \\ 1 \end{array}\right)=0$$

演算子の交換関係

$s_\pm$ については、行列表示を使うと、以下の交換関係が成り立つことが分かります。これは、軌道角運動量の場合と同じ形になります。

$$[s_+,s_-]=s_+s_- -s_-s_+=2\hbar s_z$$

また、$s_x,s_y$ については、

$$s_x=\frac{1}{2}(s_++s_-)=\frac{\hbar}{2}
\left(\begin{array}{cc} 0 & 1 \\
1 & 0 \end{array}\right)$$

$$s_y=\frac{1}{2i}(s_+-s_-)=\frac{\hbar}{2}
\left(\begin{array}{cc} 0 & -i \\
i & 0 \end{array}\right)$$

であるから、以下の交換関係が成り立つことが分かります。

$$[s_x,s_y]=s_xs_y -s_ys_x=i\hbar s_z$$$$[s_y,s_z]=s_ys_z -s_zs_y=i\hbar s_x$$$$[s_z,s_x]=s_zs_x -s_xs_z=i\hbar s_y$$

パウリ行列

パウリ行列を次で定義すると、

$$\sigma_x=\left(\begin{array}{cc} 0 & 1 \\
1 & 0 \end{array}\right)$$$$\sigma_y=\left(\begin{array}{cc} 0 & -i \\
i & 0 \end{array}\right)$$$$\sigma_z=\left(\begin{array}{cc} 1 & 0 \\
0 & -1 \end{array}\right)$$

スピン角運動量は以下で表すことができます。

$${\bf s}=\frac{\hbar}{2}{\bf\sigma}$$

このパウリ行列は、次のような特徴があり、

  • エルミート行列である。
    $$\sigma_x^\dagger=\sigma_x$$$$\sigma_y^\dagger=\sigma_y$$$$\sigma_z^\dagger=\sigma_z$$
  • 行列式が-1である。
    $$\det{\sigma_x}=\det{\sigma_y}=\det{\sigma_z}=-1$$
  • 対角和が0である。
    $$\mathrm{tr}{\sigma_x}=\mathrm{tr}{\sigma_y}=\mathrm{tr}{\sigma_z}=0$$

以下の交換関係が成り立つことが分かります。

$$[\sigma_x,\sigma_y]=2i\sigma_z$$$$[\sigma_y,\sigma_z]=2i\sigma_x$$$$[\sigma_z,\sigma_x]=2i\sigma_y$$

 

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