フォノンとは

/物性論

フォノンとは、結晶内の格子振動による弾性波を量子化したものです。

古典論の弾性波

古典的な弾性波を導きます。簡単のため、間隔 $a$ で並ぶ1次元の $N$ 個の原子配列(格子)を考えます。ある原子に働く力は両隣りの原子との距離に比例すると仮定すると以下で表されます。

$$F_s=C(q_{s+1}-q_s)+C(q_{s-1}-q_s)  -①$$

ここで、$q_s$ と $m$ は原子 $s$ の変位と質量、$C$ は比例定数(弾性定数)を表します。$q_s$ は以下で定義します。

$$q_s\propto e^{i(ska-\omega t)}  -②$$

また、$k$ は波数で以下で定義します。$n$ は波の数で、$n$ が大きくなるほど波長は短くなります。原子は間隔 $a$ で並んでいるため、意味のある最も短い波長は $2a$($k=2\pi/\lambda=\pi/a$)となります。

$$k=\frac{2\pi n}{Na}  ,  n=0,\pm1,\pm2,\cdots,\pm\frac{N}{2}$$

このとき、分散関係は、

$$\omega_k^2=\frac{2C}{m}(1-\cos{ka})  -③$$$$=\frac{4C}{m}\sin^2{\frac{1}{2}ka}  -④$$

群速度は④から求められます。

$$v_g\equiv\frac{d\omega_k}{dk}=\sqrt{\frac{Ca^2}{m}}\cos{\frac{1}{2}ka}  -⑤$$

古典的ハミルトニアンは以下で表すことができます。

$$H=\sum_{s=1}^N\Big(\frac{1}{2m}p_s^2+\frac{C}{2}(q_{s+1}-q_s)^2\Big)  -⑥$$$$=\sum_{k}\Big(\frac{1}{2m}P_k^2+\frac{m\omega_k^2}{2}Q_k^2\Big)  -⑦$$

ここで、座標と運動量を離散フーリエ変換した基準座標 $Q_s$ と共役運動量 $P_k$ を以下で定義します。

$$Q_k=\frac{1}{\sqrt{N}}\sum_sq_se^{-iksa}  -⑧$$$$P_k=\frac{1}{\sqrt{N}}\sum_sp_se^{-iksa}  -⑧$$

③を導く

①より運動方程式は以下になります。

$$m\frac{d^2q_s}{dt^2}=F_s=C(q_{s+1}+q_{s-1}-2q_s)  -(1)$$

これに②を代入すると、

$$-\omega_k^2mq_s=C(q_{s+1}+q_{s-1}-2q_s)$$

さらに②より $q_{s\pm1}=q_se^{\pm ika}$ であるから、

$$-\omega_k^2m=C(e^{ika}+e^{-ika}-2)=2C(\cos{ka}-1)$$

これより③が導かれます。

⑥を導く

⑥をハミルトン方程式に代入すると、$q_s$ を含まない項は0になるため、

$$\frac{dp_s}{dt}=-\frac{\partial H}{\partial q_s}$$$$=C(q_{s+1}+q_{s-1}-2q_s)$$

これより、運動方程式 (1) が導かれることが分かります。

⑦を導く

⑥の第1項に⑧の逆変換

$$p_s=\frac{1}{\sqrt{N}}\sum_kP_ke^{iksa}$$

を代入すると、

$$\sum_{s=1}^N\frac{1}{2m}p_s^2=\sum_{s=1}^N\frac{1}{2m}\frac{1}{N}\Big(\sum_kP_ke^{iksa}\Big)^2$$$$=\frac{1}{2m}\sum_kP_k^2$$

一方、⑥の第2項について、$q_s$ が含まれる項は以下になりますが、

$$\frac{C}{2}(q_{s+1}-q_s)^2+\frac{C}{2}(q_s-q_{s-1})^2$$$$=\frac{C}{2}(q_{s+1}^2-2q_{s+1}q_s+2q_s^2-2q_sq_{s-1}+q_{s-1}^2)$$

$q_{s+1}q_s$ と $q_sq_{s-1}$ の項はそれぞれ $q_{s+1}$ と $q_{s-1}$ へも寄与しているので、それらは $\times1/2$ とすると、$q_s$ に寄与する項は以下になります。

$$\frac{C}{2}(-q_{s+1}q_s+2q_s^2-q_sq_{s-1})$$

これに⑧の逆変換

$$q_s=\frac{1}{\sqrt{N}}\sum_kQ_ke^{iksa}$$

を代入すると、

$$\sum_{s=1}^N\frac{C}{2}(-q_{s+1}q_s+2q_s^2-q_sq_{s-1})$$

$$=\sum_{s=1}^N\frac{C}{2}\frac{1}{N}\Big(\sum_kQ_ke^{iksa}\Big)^2(-e^{ika}-e^{-ika}+2)$$$$=\sum_kCQ_k^2(1-\cos{ka})=\sum_k\frac{m\omega_k^2}{2}Q_k^2$$

最後は分散関係③を使っています。

量子論の弾性波

量子論に移るには、演算子への置き換えを行えばよいので、

$$p_k \to -i\hbar\frac{\partial}{\partial q_s}$$

量子論でのハミルトニアンは以下で表されます。

$$H=\sum_{s=1}^N\Big(-\frac{\hbar}{2m}\frac{\partial^2}{\partial q_s^2}+\frac{m\omega_k^2}{2}q_s^2\Big)$$

これは調和振動子のハミルトニアンであるため、フォノンのエネルギー固有値は以下で表すことができます。

$$\epsilon_k=\Big(n_k+\frac{1}{2}\Big)\hbar\omega_k$$

フォノンの比熱(定積比熱)は、内部エネルギーを $U$ 、温度を $T$ とすると以下で表されます。

$$C_V=\Big(\frac{\partial U}{\partial T}\Big)_V$$$$U=\sum_k\braket{n_k}\hbar\omega_k$$

ここで、$\braket{n_k}$ はボーズ分布関数で表されます。

$$\braket{n_k}=\frac{1}{e^{\hbar\omega_k/k_BT}-1}$$

 

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