フォーク定理とは、無限回の繰り返しゲームにおいて、協力解が均衡として成立するという定理です。この均衡は、市場利率が十分に低く、互いがトリガー戦略を取った場合に現れます。
尚、トリガー戦略とは、相手が「協力」的ならば「協力」するが、相手が「非協力」に転じた場合は、それ以降自分も「非協力」(相手に不利な行動)を取るという戦略です。
繰り返しゲーム
繰り返しゲームとは、同じ戦略形ゲームを何回も繰り返して行うゲームです。但し、各回の後に各プレイヤが取った行動(戦略)は全てのプレイヤに知らされるものとします。
プレイヤ $A$ が行動 $X$、プレイヤ $B$ 行動 $Y$ を取る場合の行動の組を $(X,Y)$、その場合のプレイヤ $A$ の利得を $A(X,Y)$、プレイヤ $B$ の利得を $B(X,Y)$ で表すとします。このときの利得表を以下で表します。
$A\backslash B$ | $B:X$ | $B:Y$ |
$A:X$ | $A(X,X)=4$、$B(X,X)=4$ | $A(X,Y)=1$、$B(X,Y)=5$ |
$A:Y$ | $A(Y,X)=5$、$B(Y,X)=1$ | $A(Y,Y)=2$、$B(Y,Y)=2$ |
この例は、1回のみのゲームの場合、「$X$:価格維持」、「$Y$:値下げ」と置くと、2つの企業間の価格競争を表し、いわゆる「囚人のジレンマ」のパターンです。
両社が価格維持の行動を取ると両社の利得は共に「4」になりますが、互いの最適反応戦略は値下げであるため、ナッシュ均衡での両社の利得は共に「2」になってしまいます。1回のみの戦略型ゲームの場合は、このナッシュ均衡が現れます。
有限回繰り返しの場合
有限回($T$ 回)の繰り返しゲームの場合は、最後で相手の値下げを怖れて自分も値下げをしてしまうため、1回のみの戦略型ゲームと同じナッシュ均衡が現れてしまいます。
回数 | 1 | 2 | ・・・ | $T-1$ | $T$ |
$A$ | 4 | 4 | 4 | 4 | 2 |
$B$ | 4 | 4 | 4 | 4 | 2 |
無限回繰り返しの場合
無限回繰り返しゲームの場合は状況が変わり、両社のトリガー戦略がナッシュ均衡として現れる場合があります。
次の例は、最初は協力(価格維持)で、$T$ 回目で $A$ が非協力(値下げ)に転じた場合です。$T$ 回目には $A$ の利得は「5」になり一時的に増えますが、$T+1$ 回目で $B$ も非協力(値下げ)に転じると、$A$ の利得は「2」に減ってしまいます。
回数 | 1 | 2 | ・・・ | $T-1$ | $T$ | $T+1$ | $T+2$ | ・・・ |
$A$ | 4 | 4 | 4 | 4 | 5 | 2 | 2 | 2 |
$B$ | 4 | 4 | 4 | 4 | 1 | 2 | 2 | 2 |
このような状況では、$A$ は協力(価格維持)を続けるか、非協力(値下げ)に転じるか判断に迫られます。
フォークの定理の条件
無限回の繰り返しゲームにおいて、フォークの定理が成り立つ条件を求めます。
まず上の例で、$T$ 回目の時点で、それ以降の利得の合計(現在価値)を計算します。ここで $\delta$ は割引因子($1-$利率)です。
- 協力(価格維持)を続ける場合
$$A_C=4+4\delta+4\delta^2+4\delta^3+\cdots=\frac{4}{1-\delta}$$ - 非協力(値下げ)を転じる場合
$$A_D=5+2\delta+2\delta^2+2\delta^3+\cdots=\frac{5-3\delta}{1-\delta}$$
ここで、協力(価格維持)戦略の利得が非協力(値下げ)戦略の利得より大きくなる条件 $A_C\gt A_D$ は、
$$\frac{4}{1-\delta}\gt\frac{5-3\delta}{1-\delta}$$$$\delta\gt\frac{1}{3}$$
従って、割引因子が $1/3$ より大きい場合は、協力(価格維持)戦略が選択されることが分かります。
次に、以下のような一般の場合で利得の合計(現在価値)を計算します。
$A\backslash B$ | $B:X$ | $B:Y$ |
$A:X$ | $A(X,X)=C$、$B(X,X)=C$ | $A(X,Y)=T$、$B(X,Y)=S$ |
$A:Y$ | $A(Y,X)=S$、$B(Y,X)=T$ | $A(Y,Y)=D$、$B(Y,Y)=D$ |
- 協力(価格維持)を続ける場合
$$A_C=C+C\delta+C\delta^2+C\delta^3+\cdots=\frac{C}{1-\delta}$$ - 非協力(値下げ)を転じる場合
$$A_D=S+T\delta+T\delta^2+T\delta^3+\cdots=\frac{S-(S-D)\delta}{1-\delta}$$
$A_C\gt A_D$ を求めると、
$$\delta\gt\frac{S-C}{S-D}$$
この場合、協力(価格維持を)続けるという戦略が合理的な判断として選択されることになり、特に割引因子が大きい(利率が低い)場合に現れ易くなります。これは、利率が低い場合は将来の利得の現在価値は大きくなり、繰り返しゲームの影響が出てくるためです。