概要
華厳宗は、大方広仏華厳経(華厳経)を根本経典とする宗派で、7世紀の中国で成立しました。日本へは8世紀に伝わり、南都六宗、日本十三宗の1つとなっています。本尊は、奈良の大仏で知られる毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)です。
- 時代:7世紀~
- 宗祖:杜順(とじゅん)
- 所依:華厳経
世親による「華厳経」の註釈書である「十地経論」に基づいて浄影(じょうよう)が起こした宗派が地論宗ですが、その地論宗の教えを元に、杜順が華厳宗を開きました。
第二祖は智儼(ちごん)、第三祖は法蔵、第四祖は澄観(ちょうかん)、第五祖は宗密と相承されています。法蔵は、当時の天台宗や法相宗の教学を取り入れて、華厳宗の教学を大成しました。
尚、中国の五祖の前に、インドの馬鳴(めみょう)と、「華厳経」の解説書である「十住毘婆沙論(じゅうじゅうびばしゃろん)」を書いた龍樹を加えて七祖とすることもあります。
教義
天台宗の実相論に対し、「一即一切、一切即一」の縁起を説き、「縁来れば生ず、縁去れば滅す」という従来の縁起に対し、「縁来るも生ぜず、縁去るも滅せず」という絶対実在の性起を主張します。
また華厳経は、仏教経典の中でもとりわけ難しいとされており、その内容は釈迦の悟りそのものであるとも言われています。そして修行の道は険しく、高名な僧侶達でさえ完遂出来ないことが珍しくなかったと伝えられています。
五教十宗
華厳宗では、仏の全ての教えを次の5つの段階に分けて考えます。
- 小乗教
- 大乗始教(しきょう)
小乗を出て初めて大乗に入った段階。 - 大乗終教(じっきょう)
真如と諸法が融合し森羅万象の中に内在するとした、完成された大乗の教え。 - 頓教(とんぎょう)
主観と客観の相対を超え、さらに言語や思考を絶した教え。 - 円教(えんきょう)
仏の悟りの世界の中に全てが備わっており、一つとして欠けるものがないという意。
重々無尽の縁起
重々無尽の縁起とは、この世界の実相は、あらゆる具体的な事物が相互に関係し合い(相即相入)、無限に重なりあっているという考え方です。この実相は4つの見方(四法界)に分けられます。
四法界は、この世の存在を現象(事)と本質(理)の二面から見たもので、華厳宗では四法界の中に全てが包摂され、それ以外に何も存在しないと考えます。
- 事法界(じほっかい)
我々の通常のものの見方で、差別的な現象の世界です。森羅万象が因果(縁起)によって現れるとされています。 - 理法界(りほっかい)
無自性・空の見方で、本質的な理の世界です。無自性・空とは、全てのものに実体はなく、相互の関係性(縁起)において存在するという考え方です。 - 理事無礙法界(じりむげほっかい)
事法界と理法界が融通する一体不二で、無自性・空の世界と具体的な現象が共存する世界です。「理」は理法界、「事」は事法界、「無礙」は何も障害が存在しないことを意味します。 - 事々無礙法界(じじむげほっかい)
無自性・空も消え去り、ただ事象が融通無礙に共存し、本来の真実一如の世界です。事象だけが存在し、事象同士は互いに縁起でつながり、共存するものとされています。
性起説
性起説とは、全ての衆生は真理(法界)を体現する仏(法身)と同じ性質(仏性)を本来有しており、それが生起・顕現したものであるする考え方です。言い換えると、一切衆生悉有仏性(いっさいしゅじょうしつうぶっしょう)の華厳宗での解釈に相当します。
日本の華厳経
日本へは8世紀に、第三祖法蔵門下の審祥(しんじょう)によって伝えられました。審祥は金鐘寺(後の東大寺)にて「華厳経」に基づく講義を行ったことが本格的に広まるきっかけとなり、後に東大寺盧舎那仏像(奈良の大仏)が建立されました。
鎌倉時代に入ると新興した仏教が主流となり、教示が哲学的で難しかった華厳宗は庶民にうまく広まらず、一時的に勢いが弱まりました。現代では、華厳経学は仏教思想の代表として位置付けられています。