ビアンキの関係式
ビアンキの関係式とは、リーマン曲率テンソルの添え字の巡回置換に成り立つ関係式です。以下のように表されます。
$$R_{ijk}^m+R_{jki}^m+R_{kij}^m=0 -①$$
ここで、リーマン曲率テンソルは、クリストッフェル記号により以下で定義されます。
$$R_{ijk}^m=\frac{\partial\Gamma_{ik}^m}{\partial x^j}-\frac{\partial\Gamma_{ij}^m}{\partial x^k}+\Gamma_{ik}^n\Gamma_{nj}^m-\Gamma_{ij}^n\Gamma_{nk}^m -②$$
ビアンキの関係式を導く
(11)について、添え字{$i,j,k$}を1つづつ巡回置換させます。
$$R_{jki}^m=\frac{\partial\Gamma_{ji}^m}{\partial x^k}-\frac{\partial\Gamma_{jk}^m}{\partial x^i}+\Gamma_{ji}^n\Gamma_{nk}^m-\Gamma_{jk}^n\Gamma_{ni}^m -③$$
$$R_{kij}^m=\frac{\partial\Gamma_{kj}^m}{\partial x^i}-\frac{\partial\Gamma_{ki}^m}{\partial x^j}+\Gamma_{kj}^n\Gamma_{ni}^m-\Gamma_{ki}^n\Gamma_{nj}^m -④$$
次に、②③④を足し合わせると、クリストッフェル記号の対称性 $\Gamma_{ij}^m=\Gamma_{ji}^m$ により、②の右辺第1項と④の右辺第2項は打ち消し合います。結局、右辺の和は0になり、左辺の和(ビアンキの関係式)のみ残ることが分かります。
ビアンキの恒等式
ビアンキの恒等式とは、リーマン曲率テンソルの共変微分に成り立つ対称性です。以下のように表されます。ここで、コロン( $:$ )は共変微分を表します。
$$R_{ijk:l}^m+R_{ikl:j}^m+R_{ilj:k}^m=0$$
ビアンキの恒等式を導く
まず、2つのベクトルの外積に対し共変微分を行います。ここでは $k$ と $l$ の順番を入れ替えて2回行います。
$$(A_iB_j)_{:k:l}=A_{i:k:l}B_j+A_{i:k}B_{j:l}+A_{i:l}B_{j:k}+A_iB_{j:k:l}$$$$(A_iB_j)_{:l:k}=A_{i:l:k}B_j+A_{i:l}B_{j:k}+A_{i:k}B_{j:l}+A_iB_{j:l:k}$$
2つの式の差分をとって、リーマン曲率テンソルの定義式
$$A_mR_{ijk}^m=A_{i:j:k}-A_{i:k:j}$$
を使うと、
$$(A_iB_j)_{:k:l}-(A_iB_j)_{:l:k}=(A_{i:k:l}-A_{i:l:k})B_j+A_i(B_{j:k:l}-B_{j:l:k})$$
$$=A_mB_jR_{ikl}^m+A_iB_mR_{jkl}^m$$
ここで、ベクトルの外積はテンソルであり、共変微分はテンソルであるから、$A_iB_j\to A_{i:j}$ と置き替えます。
$$A_{i:j:k:l}-A_{i:j:l:k}=A_{m:j}R_{ikl}^m+A_{i:m}R_{jkl}^m -⑤$$
次に、添え字{$j,k,l$}を1つづつ巡回置換させます。
$$A_{i:k:l:j}-A_{i:k:j:l}=A_{m:k}R_{ilj}^m+A_{i:m}R_{klj}^m -⑥$$$$A_{i:l:j:k}-A_{i:l:k:j}=A_{m:l}R_{ijk}^m+A_{i:m}R_{ljk}^m -⑦$$
⑤⑥⑦の左辺を、リーマン曲率テンソルを定義を使って書き換えます。ここで、⑤⑥⑦の左辺の和と⑧⑨⑩の左辺の和は等しいため、それぞれの右辺の和を等しいと置くことができます。
$$A_{i:j:k:l}-A_{i:k:j:l}=(A_mR_{ijk}^m)_{:l}=A_{m:l}R_{ijk}^m+A_mR_{ijk:l}^m -⑧$$
$$A_{i:k:l:j}-A_{i:l:k:j}=(A_mR_{ikl}^m)_{:j}=A_{m:j}R_{ikl}^m+A_mR_{ikl:j}^m -⑨$$
$$A_{i:l:j:k}-A_{i:j:l:k}=(A_mR_{ilj}^m)_{:k}=A_{m:k}R_{ilj}^m+A_mR_{ilj:k}^m -⑩$$
⑤⑥⑦の右辺第2項の合計は、ビアンキの関係式①により0になることが分かります。また、⑤⑥⑦の右辺第1項は、⑧⑨⑩の右辺第1項に等しいため、これらは打消します。従って、以下の項のみ残ります。
$$A_mR_{ijk:l}^m+A_mR_{ikl:j}^m+A_mR_{ilj:k}^m=0$$
ここで、ベクトル $A_m$ は任意であるため、ビアンキの恒等式が導かれます。