概要
密宗は、大日経と金剛頂経を根本経典とする宗派で、7世紀の中国で成立しました。日本へは9世紀に本格的に伝わり、日本十三宗の1つとなっています。本尊は、大日如来です。
- 時代:7世紀~
- 宗祖:金剛智(こんごうち)、不空(ふくう)
- 所依:大日経、金剛頂経
唐代に入り、インドから中国に来た善無畏(ぜんむい)と弟子により大日経の翻訳が行われ、さらに金剛智と弟子の不空が金剛頂経系密教を紹介することで、インドの純密経典が伝えられました。
密教は、それを授かった者以外には開示してはならない秘密の教えとされており、それに対して密教以外の宗派は顕教(けんきょう)と呼ばれています。師が弟子に対して教義を完全に相承したことを証する儀式を伝法灌頂といい、阿闍梨(あじゃり)の称号が与えられます。
教義
空海は、密教が顕教と異なる点を、法身説法(ほっしんせっぽう)、果分可説( いんぶんかせつ)、即身成仏(そくしんじょうぶつ)の3つとしています。
法身説法とは、教義は法身(大日如来)自ら説法したもので、果分可説とは、仏道の結果である覚りは説くことができるとした考え方です。
即身成仏
即身成仏とは、この現世において、瞬時に仏の境地を悟ることができるとする考え方です。密宗では、特に「瞬時」ということが強調されています。
大乗仏教では、六波羅蜜と呼ばれる修行を三劫(さんごう)という長い時間を経て、悟りの境地に至ると考えます。それに対し密宗では、身体と言葉と心の3つの行為形態(三密)による行法を備えているため、三劫という時間を要せず成仏できると説かれています。
さらに、存在として本体である「地・水・火・風・空」と「認識」の6つの要素(六大)と、様相としての尊像(大)、象徴物(三昧耶)、文字(法)、立体(羯磨)の4種の曼荼羅(四曼)として表現されています。
密厳国土
密厳とは、「すばらしく飾り立てられた」という言葉であり、密教的には「存在しているものが有効に機能している」という意味を持ちます。
密厳国土とは、大日如来の世界であるとともに、我々が今現に存在している世界でもあります。密教においては、聖と俗の区別は無く、あらゆるものが存在し、全てが大日如来の光により映し出されている曼荼羅の世界です。
阿字観
阿字観(あじかん)とは、一種の瞑想法で、比較的行いやすい単独行法として重視されてきました。あらゆる文字の最初であり、根源でもある「阿字」を観じ、それと自己との同一を感得する行法です。
場合により、阿字が拡大して全宇宙を覆い尽くすと観じる「広観」、逆に阿字が小さく収斂して一点に凝縮すると観じる「斂観」(れんかん)を併せて行うこともあります。
三密加持(さんみつかじ)
言葉・身体・心の三業と、口密・身密・意密の三密を一体化するため、真言を唱え、印を結び、心に大日如来の境地を観念する修行法です。三密加持が完璧に行われれば、仏と自己の一体化が完成します。
用語
- 真言
梵語(サンスクリット語)の発音をそのまま漢文に写した言葉で、この世の真理を表す大日如来の言葉とされます。 - 伝法灌頂(でんぼうかんじょう)
修行者の頭に水を濯(そそ)ぎ、真理を受け継いだことを示す密教の儀式です。 - 阿闍梨(あじゃり)
伝法灌頂を受けた、密教における最高位の僧です。 - 阿頼耶識(あらやしき)
人間の意識の段階である五識(眼・耳・鼻・舌・身)、意識、末那識、阿頼耶識の中で最も深層部分に位置し、通常は意識されることのない部分です。 - 護摩(ごま)
炎の中に供物を投げ入れながら祈る修法で、護摩の炎で悩みの原因や病魔を焼き払うという意味をもちます。
日本の密宗
台密と東密
台密とは、最澄によって創始され、円仁、円珍らによって完成された日本天台宗の継承する密教です。東密とは、空海が唐の青龍寺恵果に受法して請来し、真言密教として体系付けた真言宗の密教です。
真言宗が密教専修であるのに対し、日本天台宗は天台教学を中心に、密教・戒律・禅の四宗相承である点が異なっています。
純密と雑密
純密(じゅんみつ)とは、最澄や空海によって紹介された密教です。雑密(ぞうみつ)とは、最澄や空海以前に、断片的に請来され信仰された飛鳥時代や奈良時代の密教です。