S行列とは

/場の量子論

S行列とは

S行列(散乱行列)とは、散乱過程の始状態と終状態に関係を表す行列です。始状態の状態ベクトルを $\psi(-\infty)$ 、終状態を $\psi(\infty)$ とすると、S行列は以下で定義されます。

$$\ket{\psi(\infty)}=S\ket{\psi(-\infty)}$$

尚、状態ベクトルは、相互作用表示を使うと、次のようなシュレディンガー方程式に従います。

$$i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\ket{\psi(t)}=H_I\ket{\psi(t)}  -①$$

ハミルトニアンのエルミート性により、ユニタリ変換となるため、状態ベクトルのノルムは時間経過に依存しません。

$$\braket{\psi(t)|\psi(t)}=\mathrm{const}$$

このとき、S行列は以下のように表すことができます。

$$S=\sum_{n=0}^\infty S_n$$$$S_n\equiv\Big(\frac{-i}{\hbar}\Big)^n\int_{-\infty}^\infty dt_1\int_{-\infty}^{t_1}dt_2\cdots\int_{-\infty}^{t_{n-1}}dt_nH_I(t_1)H_I(t_2)\cdots H_I(t_n) -②$$

時間順序積

時間順序積とは、一般的な積を時間順序に並べ替えた積のことで、2つ以上の演算子の積を行う場合、順序の早い演算子を右側に、順序の遅い演算子を左側に並べ替えます。

時間順序積 $T\{\cdots\}$ により、S行列は以下のように書き換えられます。

$$S_n=\frac{(-i)^n}{n!}\int_{-\infty}^\infty dt_1\int_{-\infty}^\infty dt_2\cdots\int_{-\infty}^\infty dt_nT\{H_I(t_1)H_I(t_2)\cdots H_I(t_n)\} -③$$

時間順序積は、②では、$t_n$ の積分範囲は{$-\infty,t_{n-1}$}ですが、これを順除を意識しない{$-\infty,\infty$}に書き換えています。このときの重複度は $n!$ となります。

尚、演算子を交換する際には、ボソンの場合は符号は変わりませんが、フェルミオンの場合は反転します。まずボソンの場合は、

$$T\{H_I(t_1)H_I(t_2)\}=\left\{\begin{array}{ll}
H_I(t_1)H_I(t_2) & (t_1\gt t_2) \\
H_I(t_2)H_I(t_1) & (t_1\lt t_2)\end{array} \right.$$

フェルミオンの場合は、

$$T\{H_I(t_1)H_I(t_2)\}=\left\{\begin{array}{ll}
H_I(t_1)H_I(t_2) & (t_1\gt t_2) \\
-H_I(t_2)H_I(t_1) & (t_1\lt t_2)\end{array} \right.$$

S行列を導く

②を導く

①を積分すると、

$$\ket{\psi(t)}=\ket{\psi_0}-\frac{i}{\hbar}\int_{-\infty}^tdt_1H_I(t_1)\ket{\psi(t_1)}$$$$\ket{\psi_0}=\ket{\psi(-\infty)}$$

次に $\ket{\psi(t_1)}$ を求めると、

$$\ket{\psi(t_1)}=\ket{\psi_0}-\frac{i}{\hbar}\int_{-\infty}^{t_1}dt_2H_I(t_2)\ket{\psi(t_2)}$$

となるので、最初に式に代入すると、

$$\ket{\psi(t)}=\ket{\psi_0}-\frac{i}{\hbar}\int_{-\infty}^tdt_1H_I(t_1)\Big[\ket{\psi_0}-\frac{i}{\hbar}\int_{-\infty}^{t_1}dt_2H_I(t_2)\ket{\psi(t_2)}\Big]$$

これを繰り返すと以下になります。

$$\ket{\psi(t)}=\ket{\psi_0}-\frac{i}{\hbar}\int_{-\infty}^tdt_1H_I(t_1)\ket{\psi_0}$$$$+\frac{1}{\hbar^2}\int_{-\infty}^tdt_1\int_{-\infty}^{t_1}dt_2H_I(t_1)H_I(t_2)\ket{\psi_0}$$$$+\cdots$$

$$+\Big(\frac{-i}{\hbar}\Big)^n\int_{-\infty}^tdt_1\int_{-\infty}^{t_1}dt_2\cdots\int_{-\infty}^{t_{n-1}}dt_nH_I(t_1)H_I(t_2)\cdots H_I(t_n)\ket{\psi_0}$$$$+\cdots$$

これにより、$t\to\infty$ とすると②が成り立つことが分かります。

 

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