ラウールの法則とは
ラウールの法則とは、蒸気を理想気体とする場合、混合溶液のある成分の蒸気圧とその純液体の蒸気圧の比は、その成分の混合溶液中のモル分率と一致することを表す法則です。ラウールの法則は、理想溶液の条件として考えられます。
ある成分 $A$ の蒸気圧を $p_A$ 、その純液体の蒸気圧を $p_A^*$ 、モル分率を $X_A$ とすると以下のような関係があります。ラウールは19世紀に、この関係式が広範な溶液の蒸気圧で近似的に成り立つことを示しました。
$$\frac{p_A}{p_A^*}=X_A -①$$
モル分率はその成分のモル数の比で定義されます。
$$X_A=\frac{n_A}{n_A+n_B+\cdots}$$
尚、溶液とその蒸気が平衡状態にある場合、溶液と蒸気の化学ポテンシャルをそれぞれ $\mu_A^l$ と $\mu_A^g$ すると以下の関係が成り立ちます。
$$\mu_A^l=\mu_A^g -②$$
理想溶液
理想溶液とは、溶液中のある成分の活量(相対活量)がモル分率と一致する溶液です。尚、活量は、混合溶液での絶対活量とその純液体の絶対活量の比で定義されます。
ある成分の絶対活量 $\lambda_A$ は、化学ポテンシャル $\mu_A$ から定義され、
$$\mu_A\equiv RT\ln{\lambda_A}$$
1気圧の純液体の場合を基準状態とし、それぞれ絶対活量を $\lambda_A^*$ 、化学ポテンシャルを $\mu_A^*$ で表すと、
$$\mu_A^*=RT\ln{\lambda_A^*}$$
これらの差を取ると、
$$\mu_A-\mu_A^*=RT\ln{\frac{\lambda_A}{\lambda_A^*}} -③$$
ここで、活量(相対活量)$a_A$ は、絶対活量の基準状態との比で表されます。
$$a_A\equiv\frac{\lambda_A}{\lambda_A^*}$$
活量とモル分率の比は活量係数($\gamma$)と呼ばれ、一般には1と異なる値を持ちますが、
$$\gamma_A\equiv\frac{a_A}{X_A}\ne1$$
理想溶液は、活量係数が1になる溶液として定義されます。
$$\gamma_A=\frac{a_A}{X_A}=1 -④$$
ラウールの法則を導く
ラウールの法則(①)は、理想溶液の条件(④)と、以下の理想気体の条件から導くことができます。
$$pV=pV_A=RT -⑤$$$$\frac{dp}{p}=\frac{dp_A}{p_A} -⑥$$
まず、モル当たりの自由エンタルピーを以下で定義すると、
$$G_A=\Big(\frac{\partial G}{\partial n_A}\Big)_\bar{n}$$
自由エンタルピーの定義より、
$$dG=-SdT+Vdp+\sum_i\mu_idn_i$$
以下の関係が成り立ちます。
$$V_A=\Big(\frac{\partial G_A}{\partial p}\Big)_T=\Big(\frac{\partial\mu_A}{\partial p}\Big)_T$$
これを蒸気の化学ポテンシャルに適用し、⑤と⑥を使うと、
$$d\mu_A^g=V_Adp=RT\frac{dp}{p}=RT\frac{dp_A}{p_A}$$
これに相平衡の条件②を適用すると、
$$d\mu_A^l=RT\frac{dp_A}{p_A}$$
これを積分すると、
$$\mu_A^l=RT\ln{p_A}+\mathrm{const}$$
一方、純液体が平衡にある場合は、
$$\mu_A^{l*}=RT\ln{p_A^*}+\mathrm{const}$$
これらの差を取り、定数分を調整すると、
$$\mu_A^l-\mu_A^{l*}=RT\ln{\frac{p_A}{p_A^*}}$$
左辺は③と等しいと置き、理想溶液の条件④を使うと、
$$\frac{p_A}{p_A^*}=\frac{\lambda_A}{\lambda_A^*}=a_A=X_A$$
これよりラウールの法則が得られることが分かります。