概要
労使協定とは、労働者と使用者間で取り交わされる約束事を書面契約した協定のことです。労使協定には様々な種類があり、代表的な労使協定に時間外・休日労働に関する通称「36(サブロク)協定」があります。
使用者は、基本的に労働基準法を元に就業規則を定めますが、例外の規則を設けることもあります。そのような例外的な規則を労働者と使用者の間で労使協定として締結し、就業規則の規定を併せて行うことで、法的義務の免除の効果があります。
労働協約との違い
労働協約とは、賃金・労働条件・組合活動などの労使関係のルールについて、労働組合と使用者の間で取り交わす約束事です。労働協約が締結されると、労働者は安心して働くことができる一方、使用者の側も労使関係の安定を維持できるメリットがあります。
労働協約と労使協定では、締結する相手や目的が異なります。労働協約は原則として労働組合の組合員のみに適用されるため、当該事業場の全労働者が対象となる労使協定とは異なります。
就業規則との違い
就業規則とは、事業所での労働条件や労働者が守るべき職場内の規律やルールなどを定めた規則で、労働基準法に基づいて作成されます。常時10人以上の労働者を雇用している事業所は就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出る義務があります。
労使協定は免除や免罰効果がメインでしたが、就業規則は民事的な権利義務が発生し規範的効果を有します。就業規則が原則として扱われ、労使協定は例外のために締結される関係になります。
労使協定の種類
労使協定には様々な種類があり、それぞれが労働基準法に関連したものです。また労使協定には労働基準監督署に届出が必要なものと不要なものがあります。
賃金から法定控除以外の控除を行う場合(届出不要)
寮費・食費・親睦会費などの法定控除以外の控除を賃金から行う場合には、労使協定の締結が必要です。
⇒労働基準法 第24条(賃金の支払)
【労使協定に定める内容】
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1週間単位の非定型的変形労働時間制に関する労使協定(届出要)
規模30人未満の小売業・旅館・飲食店などの事業において、1週間単位で毎日の労働時間を弾力的に定められる労使協定です。
⇒労働基準法 第32条の5(労働時間)
1ヶ月単位の変形労働時間制に関する労使協定(就業規則があれば届出不要)
1ヶ月以内の一定の期間を平均して、1週間の労働時間が40時間以下の範囲内において、1日または1週間の法定労働時間を超えて労働させるための労使協定です。
⇒労働基準法 第32条(労働時間)
1年単位の変形労働時間制に関する労使協定(届出要)
【労使協定に定める内容】
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フレックスタイム制に関する労使協定(届出不要)
フレックスタイム制とは、最大3ヶ月の清算期間を平均して1週間あたりの労働時間が40時間以内であれば、特定の1日で8時間、1週間で40時間を超えて労働しても構わないという制度です。清算期間が1ヶ月を超えない場合であれば、労使協定の届出は不要です。
⇒労働基準法 第32条の3(労働時間)
【労使協定に定める内容】
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休憩の一斉付与の例外(届出不要)
休憩は、労働基準法に基づき、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上を与えなければなりませんが、業務の性質などから、休憩の一斉付与が難しい場合は、労使協定を結べば、一斉付与の適用を除外することが認められます。
⇒労働基準法 第34条(休憩)
時間外労働、休日労働に関する労使協定(36協定)(届出要)
労働時間は原則1日8時間、1週40時間以内(法定労働時間)ですが、これを超えて働かせる場合は、時間外労働の業務の種類と時間を定める必要があります。但し、時間外労働の上限は1か月45時間、1年360時間(限度時間)とされています。
⇒労働基準法 第36条(時間外及び休日の労働)
【労使協定に定める内容】
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事業所外労働のみなし労働時間制に関する労使協定(届出要)
業務を事業場外で行っており、指揮監督が及ばずに業務に関する労働時間の算定が困難な場合が対象の労使協定です。使用者の該当の労働時間の算定義務が免除され、事業場外労働については特定の時間を労働したとみなせます。
⇒労働基準法 第38条の2(時間計算)
【労使協定に定める内容】
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専門業務型裁量労働制に関する労使協定(届出要)
専門業務型裁量労働制とは、専門性が高く、業務遂行の手段・方法・時間配分などを大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある特定の業務についての働き方です。
⇒労働基準法 第38条の3(時間計算)
【労使協定に定める内容】
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年次有給休暇の時間単位での付与(届出不要)
年次有給休暇の付与は原則1日単位ですが、労使協定を締結すれば年5日の範囲内で時間単位での取得が可能です。
⇒労働基準法 第39条
年次有給休暇の計画的付与(届出不要)
年次有給休暇の計画的付与とは、年次有給休暇の日数のうち5日を超える部分について、労使協定に定める時季に年次有給休暇を与えられる制度です。労使協定で年次有給休暇を与える時季に関する定めが必要です。
⇒労働基準法 第39条
年次有給休暇の賃金を標準報酬日額で支払う場合(届出不要)
使用者は、その雇入れの日から起算して6ケ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、10労働日の有給休暇を与えなければなりません。
【労使協定に定める内容】
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割増賃金に関する規定
1日8時間、1週間40時間を超える時間外労働(法定外残業)をさせる場合や、深夜、法定休日の労働に対しては、割増賃金を支払う必要があります。割増率は労働基準法で規定されていて、具体的には下記の通りです。
週40~60時間未満の残業(法定時間外労働) | 25%以上 |
週60時間を超えた残業(法定時間外労働) | 50%以上 |
深夜労働(22:00~5:00) | 25%以上 |
法定休日 | 35%以上 |
育児休業、看護休暇及び介護休業が出来ない者の範囲(届出不要)
育児休業・介護休業・子の看護休暇・介護休暇などを取得できない者の範囲を労使協定で定められます。尚、取得できない者は一定の範囲に限定されるため注意が必要です。
⇒育児・介護休業法 第6条(育児休業申出があった場合における事業主の義務等)
労使協定の罰則
労使協定に違反すると罰則が科せられます。
締結した労使協定に違反した場合
締結した労使協定に違反したすると罰則が設けられています。
例えば、締結した36協定の時間外の上限を超えて従業員を働かせた場合、労働基準監督署に注意を促され、罰則(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科されることがあります。
2019年4月1日施行の改正労働基準法において、法定労働時間などを定めた労働基準法第36条が変更となり、改正前までは上限がなかった特別条項で定める超過勤務時間に上限が設けられました。通常の勤務形態の場合、以下の数値が示されています。
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- 1ヶ月の法定労働時間を超える時間外労働は100時間未満
- 1年の法定労働時間を超える時間外労働は720時間以下
- 2~6ヶ月間の平均時間外労働時間が80時間以下
- 時間外労働が月45時間を超えることができるのは年間6回まで
労使協定の周知義務に違反した場合
労使協定には届出の必要性の有無に関係なく周知義務があります。仮に周知義務に違反すると、労基法120条に違反したこととなり、30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。