伊藤の公式
伊藤の公式とは、確率微分方程式の確率過程に関する積分を簡便に計算するための方法で、金融資産の振る舞いを表現するためにしばしば用いられます。
ウィーナー過程
ウィーナー過程とは、ランダムウォーク(ブラウン運動)の数理モデルです。ランダムウォークは、間隔 $\Delta t$ での加法過程 $x$ は以下で表されます。$\epsilon(t)$ は平均0分散1の正規確率変数です。
$$x(t_{k+1})=x(t_k)+\epsilon(t_k)\sqrt{\Delta t}$$$$t_{k+1}=t_k+\Delta t$$
ウィーナー過程は、ランダムウォークで $\Delta t\to0$ の極限として得られます。
$$dx=\epsilon(t)\sqrt{dt} -①$$
一般化ウィーナー過程 $z$ は、ウィーナー過程 $x$ と定数 $a,b$ により表されます。
$$dz(t)=adt+bdx -②$$
一般化ウィーナー過程は以下のような解析的な解を持ちます。
$$z(t)=z(0)+at+bx(t)$$
伊藤過程
伊藤過程は、一般化ウィーナー過程をさらに一般化したものです。$a$ と $b$ は $z$ と $t$ の関数であるため、解析的な解として表すことはできません。
$$dz(t)=a(z,t)dt+b(z,t)dx -③$$
このとき、$f$ を $z$ と $t$ の関数とすると、以下の方程式で表すことができます。これを伊藤の公式と呼びます(④の導出)。
$$df(z,t)=\Big(\frac{\partial f}{\partial t}+a\frac{\partial f}{\partial z}+\frac{b^2}{2}\frac{\partial^2f}{\partial z^2}\Big)dt+b\frac{\partial f}{\partial z}dx -④$$
式の導出
④を導く
$f(z,t)$ を微小変化 $\Delta f$ について展開します。①より $\Delta t\sim\Delta x^2$ であるため、$t$ を1次の項、$z$ を2次の項まで展開し、③を使うと、
$$\Delta f=\frac{\partial f}{\partial t}\Delta t+\frac{\partial f}{\partial z}\Delta z+\frac{1}{2}\frac{\partial^2f}{\partial z^2}(\Delta z)^2$$$$=\frac{\partial f}{\partial t}\Delta t+\frac{\partial f}{\partial z}(a\Delta t+b\Delta x)+\frac{1}{2}\frac{\partial^2f}{\partial z^2}(a\Delta t+b\Delta x)^2$$
ここで $\Delta t$ よりも小なる項を無視し、$\Delta x^2\sim\Delta t$ より、
$$\Delta f=\frac{\partial f}{\partial t}\Delta t+\frac{\partial f}{\partial z}(a\Delta t+b\Delta x)+\frac{b^2}{2}\frac{\partial^2f}{\partial z^2}(\Delta x)^2$$$$=\Big(\frac{\partial f}{\partial t}+a\frac{\partial f}{\partial z}+\frac{b^2}{2}\frac{\partial^2f}{\partial z^2}\Big)\Delta t+b\frac{\partial f}{\partial z}\Delta x$$
そして $\Delta t\to0$ の極限を取ると④が得られます。