カノニカル分布とは
カノニカル分布(正準集団)とは、カノニカル集団が従う確率分布です。カノニカル集団とは、等温条件にある系で、その系では外界との間でエネルギーのやり取りができますが、分子数が一定に保たれます。
カノニカル集団(以下、部分系)とそれを取り囲む熱浴を考えます。部分系は以下の条件を仮定します。
-
- 熱容量は、熱浴に比べ小さい(無視できる)
- 熱浴との間で熱をやり取りする
- 温度 $T$ と分子数 $N$ が一定に保たれる
古典論
古典論の場合、カノニカル分布は以下で表されます。
$$P(E)=\frac{1}{Z}\exp{\Big(-\frac{E}{kT}\Big)} -①$$$$\int_{-\infty}^\infty\int_{-\infty}^\infty P(E)d{\bf q}d{\bf p}=1$$
分配関数 $Z$ は、確率分布を全ての状態で積分(規格化)することで得られます。
$$Z=\int_{-\infty}^\infty\int_{-\infty}^\infty\exp{\left(-\frac{E}{kT}\right)}d{\bf q}d{\bf p} -②$$
このとき、物理量 $A$ はカノニカル分布より以下で求めることができます。
$$\braket{A}=\frac{1}{Z}\int_{-\infty}^\infty\int_{-\infty}^\infty A({\bf q},{\bf p})\exp{\left(-\frac{E}{kT}\right)}d{\bf q}d{\bf p}$$
特にエネルギーの固有値を求める場合は、$A=E$ と置くと、
$$\braket{E}=\frac{kT^2}{Z}\frac{\partial Z}{\partial T}$$
量子論
量子論の場合、カノニカル分布は以下で表されます。
$$P(E_i)=\frac{1}{Z}\exp{\Big(-\frac{E_i}{kT}\Big)}$$$$\sum_{i=0}^\infty P(E_i)=1$$
分配関数 $Z$ は、確率分布を全ての状態 $E_i$ を足し合わせる(規格化)することで得られます。
$$Z=\sum_{i=0}^\infty\exp{\left(-\frac{E_i}{kT}\right)}$$
このとき、物理量 $A$ はカノニカル分布より以下で求めることができます。
$$\braket{A}=\frac{1}{Z}\sum_{i=0}^\infty A_i\exp{\left(-\frac{E_i}{kT}\right)}$$
特にエネルギーの固有値を求める場合は、$A_i=E_i$ と置くと、
$$\braket{E}=\frac{kT^2}{Z}\frac{\partial Z}{\partial T}$$
熱力学との関係
ヘルムホルツの自由エネルギー $F$ は、分配関数より以下で求められます。
$$F=-kT\ln{Z}$$
カノニカル分布の導出
カノニカル分布(①式)を概略的に導出します。
部分系 $E$ と熱浴 $E’$ を考えると、全体系のエネルギーは $E_0=E+E’$ となります。全体系は孤立系と考えて、等重率の仮定(ミクロカノニカル分布)が成り立つとすると、部分系のある状態が起こる確率は、それに対応する熱浴の状態数 $W’$ に比例すると考えることができます。
$$P(E)\propto P(E’)\propto W'(E’) -③$$
熱浴を孤立系とみなすと、ボルツマンの関係式が成り立ちます。
$$S'(E’)=k\ln W'(E’) -④$$
$E’=E_0-E$ で、$E_0\gg E$ とみなせるため、左辺をテイラー展開すると、
$$S'(E_0-E)\cong S'(E_0)-E\frac{\partial S’}{\partial E}=S'(E_0)-\frac{E}{T}$$
この第1項は定数となるため、③と④より、
$$P(E)\propto\exp{\Big(\frac{S'(E_0-E)}{k}\Big)}\propto\exp\Big(-\frac{E}{kT}\Big)$$
②より規格化定数としての分配関数を計算すると①が導かれます。