ブラックホールとは
ブラックホール(超高密度星)とは、星の半径がシュバルツシルドの半径(時空の地平線)より小さくなってしまった天体です。この天体は、超新星爆発を起こした星が重力崩壊をした後の、なれの果ての姿と考えられています。
ブラックホールは、極めて高密度で重力が強いため、周囲は時空が著しく歪められ、物質だけでなく光さえ脱出することができません。このため、特殊な現象がみられます。
例えば、ブラックホールの中心に向かって落下する質点を遠方の観測者が観測すると、シュバルツシルドの半径に近づくほどその質点の時間の経過は遅くなって見えます。そして、シュバルツシルドの半径でその質点は停止し、ブラックホールの中に落ちるまで無限の時間が掛かります。
一方、質点に乗って運動をする観測者にとっては、有限の時間しか掛かりません。まとめると、ブラックホールに落下する質点は、
- 遠方の観測者の視点では無限の時間
- 質点に乗った観測者の視点では有限の時間
遠方の観測者の視点
ブラックホールの中心に向かって落下する質点を、遠方の観測者の視点で考えます。まず、質点の運動を表す測地線の方程式は以下になります。
$$\frac{dv^i}{ds}+\Gamma^i_{jk}v^jv^k=0$$
ここで速度ベクトルは以下で定義されます。尚、$ds$ は固有時です。
$$v^i\equiv\frac{dx^i}{ds}$$
遠方の観測者の時間を $dt$ とすると、$dr=dx^1$ であるから、
$$\frac{dt}{dr}=\frac{dt}{ds}\cdot\frac{ds}{dx^1}=\frac{v^0}{v^1}$$$$=-k\Big(1-\frac{2mG}{c^2r}\Big)^{-1}\Big(k^2-1+\frac{2mG}{c^2r}\Big)^{-1/2} -①$$
ここで以下の関係式を使っています。
$$v^0=\frac{k}{g_{00}}=k\Big(1-\frac{2mG}{c^2r}\Big)^{-1} -②$$$$v^1=-\sqrt{k^2-g_{00}}=-\Big(k^2-1+\frac{2mG}{c^2r}\Big)^{1/2} -③$$
①を積分すると、
$$t=-k^2\frac{2mG}{c^2}\ln{\Big(r-\frac{2mG}{c^2}\Big)}+\mathrm{const} -④$$
これより、$r\to 2mG/c^2$ で $t\to\infty$ となり、質点がシュバルツシルド半径に到達するまで無限の時間が掛かることが分かります。
②を導く
測地線の方程式で、$v^2=v^3=0$ 、$g^{ij}=g_{ij}=0$($i\ne j$)であるから、
$$\frac{dv^0}{ds}=-\Gamma^0_{jk}v^jv^k=-g^{00}\Gamma_{0jk}v^jv^k$$
$$=-g^{00}\Big(\Gamma_{000}v^0v^0+\Gamma_{010}v^1v^0+\Gamma_{001}v^0v^1+\Gamma_{011}v^1v^1\Big)$$
ここで、計量は時間的に一定 $\partial g_{00}/\partial x^0=0$ とすると、クリストッフェル記号は、
$$\Gamma_{000}=\Gamma_{011}=0$$$$\Gamma_{010}=\Gamma_{001}=\frac{1}{2}\frac{\partial g_{00}}{\partial x^1}$$
これより、
$$\frac{dv^0}{ds}=-g^{00}\frac{\partial g_{00}}{\partial x^1}v^0v^1$$$$=-g^{00}\frac{dg_{00}}{dx^1}v^0\frac{dx^1}{ds}=-g^{00}\frac{dg_{00}}{ds}v^0$$
ここで $g^{00}=g_{00}^{-1}$ であり、積分を行うと、
$$g_{00}\frac{dv^0}{ds}+\frac{dg_{00}}{ds}v^0=\frac{d}{ds}(g_{00}v^0)=0$$$$g_{00}v^0=k(\mbox{定数})$$
これより②が得られます。
③を導く
計量の式を書き換えて、
$$ds^2=g_{ij}dx^idx^j$$$$1=g_{ij}\frac{dx^i}{ds}\frac{dx^j}{ds}=g_{ij}v^iv^j$$
$v^2=v^3=0$ とすると、
$$1=g_{00}v^0v^0+g_{11}v^1v^1$$
②の $v^0$ を代入すると、
$$g_{00}=k^2+g_{00}g_{11}(v^1)^2$$
ここで、シュバルツシルト解を求めた際に得られた結果 $g_{00}=e^{2\nu}$、$g_{11}=-e^{-2\nu}$ より、$g_{00}g_{11}=-1$ であるから、
$$(v^1)^2=k^2-g_{00}$$$$v^1=-\sqrt{k^2-g_{00}}$$
尚、$v^1$ は落下の方向であるため $v^1\lt0$ となります。
④を導く
シュバルツシルト半径の近傍を考えると、
$$r\equiv\frac{2mG}{c^2}+\epsilon$$
①に代入すると、
$$\frac{dt}{dr}=-k\Big(\frac{\epsilon}{r}\Big)^{-1}\Big(k^2-\frac{\epsilon}{r}\Big)^{-1/2}$$$$\cong-k^2\Big(\frac{\epsilon}{r}\Big)^{-1}\Big(1+\frac{\epsilon}{2kr}\Big)\cong-k^2\frac{r}{\epsilon}$$$$=-k^2\frac{2mG/c^2}{r-2mG/c^2}$$
これを積分すると④が得られます。
質点に乗った観測者の視点
ブラックホールの中心に向かって落下する質点に乗った観測者の視点で考えます。質点に乗って運動をする観測者の時間(固有時)は $ds$ であるから、③より、
$$\frac{ds}{dr}=\frac{1}{v^1}=-\Big(k^2-1+\frac{2mG}{c^2r}\Big)^{-1/2}$$
これより、$r\to 2mG/c^2$ で $t\to -1/k$ に収束します。従って、質点に乗った観測者は有限時間でシュバルツシルド半径を通過します。