球面調和関数
球面調和関数とは、極座標($r,\theta,\phi$)で表したラプラスの方程式の変数分離解であり、以下の微分方程式の特解 $Y_n(\theta,\phi)$ として得られます。
$$\frac{1}{\sin{\theta}}\frac{\partial}{\partial\theta}\Big(\sin{\theta}\frac{\partial Y_n}{\partial\theta}\Big)+\frac{1}{\sin^2{\theta}}\frac{\partial^2Y_n}{\partial\phi^2}+n(n+1)Y_n=0 -①$$
一般に調和関数はラプラス方程式を満足する関数で、極座標($r,\theta,\phi$)において以下のように変数分離すると、$Y(\theta,\phi)$ は①を満たすことが分かります。(導出)
$$\nabla^2u=0$$$$u(r,\theta,\phi)=R(r)Y(\theta,\phi)$$
関数 $u$ は $r$ の同次関数となっているので、体球関数(Solid harmonics)と呼ばれます。
体球関数の母関数
$n$ 次の体球関数 $u_n$ を以下のように表すと、
$$u_n(r,\theta,\phi)=r^nY_n(\theta,\phi) -②$$
一般に $n$ 次の体球関数について、1次独立な多項式の数は $2n+1$ となり、この多項式 $u_n^m$ は以下の展開式で表すことができます(導出)。
$$\Big(-\frac{x+iy}{2}t^2+zt+\frac{x-iy}{2}\Big)^n=\sum_{m=-n}^nu_n^m(x,y,z)t^{n+m} -③$$
第1種のルジャンドル陪関数
ここで $u_n^m$ を以下のように置けば、
$$u_n^m=(-1)^m\frac{n!}{(n+m)!}r^nY_n^m(\theta,\phi) -④$$
球面調和関数 $Y_n^m$ は $e^{im\phi}$ と $\theta$ だけの関数の積で表されます(導出)。従って、$Y_n$ と $Y_n^m$ は第1種のルジャンドルの陪関数 $P_n^m(\cos{\theta})$ により以下で表すことができます。
$$Y_n^m(\theta,\phi)=P_n^m(\cos{\theta})e^{im\phi} (-n\le m\le n) -⑤$$
球面関数の直交性
球面関数 $Y_n$ が以下のように表される場合、
$$Y_n=\sum_{m=0}^nP_n^m(\cos{\theta})(A_m\cos{m\phi}+B_m\sin{m\phi}) -⑥$$
以下のような直交関係が成り立ちます(導出)。
$$\int_0^\pi\int_0^{2\pi}Y_n(\theta,\phi)Y_k^*(\theta,\phi)\sin{\theta}d\theta d\phi=0 (n\ne k) -⑦$$
$Y_n^m$ については⑤より以下が成り立ちます(導出)。
$$\int_0^\pi\int_0^{2\pi}Y_n^m(\theta,\phi)Y_n^k(\theta,\phi)\sin{\theta}d\theta d\phi=\left\{\begin{array}{ll}
0 & (m+k\ne0) -⑧ \\
\frac{4\pi(-1)^m}{(2n+1)} & (m+k=0) -⑧\end{array} \right.$$
導出
③を導く
$n$ 次の同次式は $x^ay^bz^c$($a+b+c=n$)と表すことができます。例えば、$a$ を固定すると、$b$ は $0\sim n-a$ の値を取り、$c$ は一意に決まるので、$n-a+1$ 通りあります。$a$ は $0\sim n$ の値を取るため、取りうる項の数は $(n+1)!$ になります。
ラプラス演算子を作用させると $n-2$ 次の同次式となるため、項の数は $(n-1)!$ となります。従って、自由に取りうる係数はこれらの差であるので、
$$(n+1)!-(n-1)!=2n+1$$
次に $\zeta$ と $\bar{\zeta}$ を以下のように定義すると、
$$\zeta\equiv x+iy$$$$\bar{\zeta}\equiv x-iy$$
このとき微分は以下で表されるため、
$$\frac{\partial}{\partial x}=\frac{\partial\zeta}{\partial x}\frac{\partial}{\partial\zeta}+\frac{\partial\bar{\zeta}}{\partial x}\frac{\partial}{\partial\bar{\zeta}}=\frac{\partial}{\partial\zeta}+\frac{\partial}{\partial\bar{\zeta}}$$$$\frac{\partial}{\partial y}=\frac{\partial\zeta}{\partial y}\frac{\partial}{\partial\zeta}+\frac{\partial\bar{\zeta}}{\partial y}\frac{\partial}{\partial\bar{\zeta}}=i\frac{\partial}{\partial\zeta}-i\frac{\partial}{\partial\bar{\zeta}}$$
ラプラシアンは以下のように書き替えられます。
$$\frac{\partial^2}{\partial x^2}+\frac{\partial^2}{\partial y^2}+\frac{\partial^2}{\partial z^2}=4\frac{\partial^2}{\partial\zeta\partial\bar{\zeta}}+\frac{\partial^2}{\partial z^2} -(1)$$
(1) の左辺第1項を③の左辺に作用させると、
$$4\frac{\partial^2}{\partial\zeta\partial\bar{\zeta}}\Big(-\frac{\zeta}{2}t^2+zt+\frac{\bar{\zeta}}{2}\Big)^n=-n(n+1)t^2\Big(-\frac{\zeta}{2}t^2+zt+\frac{\bar{\zeta}}{2}\Big)^{n-2}$$$$=-\frac{\partial^2}{\partial z^2}\Big(-\frac{\zeta}{2}t^2+zt+\frac{\bar{\zeta}}{2}\Big)^n$$
これより、③の左辺はラプラス方程式を満たすことが分かるため、③の右辺より、
$$\sum_{m=-n}^n\nabla^2u_n^mt^{n+m}=0$$
これは恒等式であるため、$u_n^m$ はラプラス方程式を満たす個の多項式であることが分かります。
$$\nabla^2u_n^m=0$$
球面調和関数の形
($x,y,z$)を極座標で表すと、
$$x=r\sin{\theta}\cos{\phi}$$$$y=r\sin{\theta}\sin{\phi}$$$$z=r\cos{\theta} -(2)$$
従って、
$$x+iy=re^{i\phi}\sin{\theta} -(3)$$$$x-iy=re^{-i\phi}\sin{\theta} -(4)$$
③の左辺について展開して、(2)~(4)を使うと、
$$\Big(-\frac{x+iy}{2}t^2+zt+\frac{x-iy}{2}\Big)^n\propto(x+iy)^az^b(x-iy)^c\cdot t^{2a+b}$$$$=r^{a+b+c}e^{i(a-c)\phi}\sin^{a+c}{\theta}\cos^b{\theta}\cdot t^{2a+b}$$
ここで $a+b+c=n$ 、$2a+b=n+m$ あるから、$a-c=m$ であるから、
$$=r^ne^{im\phi}\sin^{a+c}{\theta}\cos^b{\theta}\cdot t^{m+n}$$
③と④より、球面調和関数 $Y_n^m$ は $e^{im\phi}$ と $\theta$ だけの関数の積で表されることが分かります。
⑦を導く
⑥を⑦の左辺に代入し、$\phi$ と $\theta$ の積分の組み合わせを書き出すと、$m\ne s$ の場合は、以下の $\phi$ の積分(三角関数の積分)は0になります。
$$\int_0^{2\pi}\sin{m\phi}\cos{s\phi}\,d\phi\int_0^\pi P_n^m(\cos{\theta})P_k^s(\cos{\theta})\sin{\theta}d\theta=0$$$$\int_0^{2\pi}\sin{m\phi}\sin{s\phi}\,d\phi\int_0^\pi P_n^m(\cos{\theta})P_k^s(\cos{\theta})\sin{\theta}d\theta=0$$$$\int_0^{2\pi}\cos{m\phi}\cos{s\phi}\,d\phi\int_0^\pi P_n^m(\cos{\theta})P_k^s(\cos{\theta})\sin{\theta}d\theta=0$$
また、$m=s$ の場合は、上記の $\theta$ の積分(ルジャンドル倍関数の積分)が以下の関係式により0になります。
$$\int_{-1}^1P_n^m(x)P_k^m(x)dx=0$$
これらより⑦が成り立つことが分かります。
⑧を導く
⑤を⑧に代入すると、$m+k\ne0$ の場合は、
$$\int_0^\pi\int_0^{2\pi}P_n^m(\cos{\theta})P_n^k(\cos{\theta})e^{im\phi}e^{ik\phi}\sin{\theta}d\theta d\phi=0$$
これは、$\phi$ の積分(指数関数の積分)に以下になることから分かります。
$$\int_0^{2\pi}e^{i(m+k)\phi}d\phi=\left\{\begin{array}{ll}
0 & (m+k\ne0) \\
2\pi & (m+k=0)\end{array} \right.$$
一方、$m+k=0$ の場合は、以下のルジャンドルの倍関数の公式より、
$$\int_{-1}^1P_n^m(x)P_n^{-m}(x)dx=\frac{2(-1)^m}{2n+1}$$
以下が得られ、これらより⑧が成り立つことが分かります。
$$\int_0^{2\pi}d\phi\int_0^\pi P_n^m(\cos{\theta})P_n^{-m}(\cos{\theta})\sin{\theta}d\theta=\frac{4\pi(-1)^m}{2n+1}$$