ポアンソーの定理
ポアンソーの定理とは、1つの固定点のまわりを回る外力の作用しない剛体において、その慣性楕円体の運動の特徴を表したものです。
剛体の固定点(原点)$O$ を通る任意の回転軸 $\vec{\omega}$ と慣性楕円体との交点を $R$ とすると、これらは以下の性質を持ちます。
- 角速度 $\omega$ の大きさは $\overline{OR}$ の長さに比例する(①)
- $R$ を通る慣性楕円体の接平面は剛体の角運動量 ${\bf L}$ に垂直となる(②)
- 慣性楕円体の接平面は空間に固定された不変面となる(③)
- 剛体の慣性楕円体は常に不変面に接しながら滑ることなく転がる。
接点 $R$ が不変面上に描く曲線をハーポールホード、慣性楕円体上に残す軌跡をポールホードと呼びます。 - $\overline{OR}$ が慣性主軸に一致する場合は接点 $R$ は不動点となる(④)
①を導く
慣性楕円体で求めた⑦と⑧より、
$$\frac{\omega}{\rho}=\sqrt{2K}$$
外力が働かない剛体の運動エネルギー $K$ は一定となるため、角速度 $\omega$ の大きさは $\overline{OR}$ の長さに比例することが分かります。
②を導く
角速度ベクトル $\vec{\omega}$ と慣性楕円体との交点を $R$( $\xi_r,\eta_r,\zeta_r$ )とし、$R$ で慣性楕円体⑥に接する平面上の点を( $\xi’,\eta’,\zeta’$ )とすると、以下の関係が成り立つため、
$$I_\xi\xi_r\xi’+I_\eta\eta_r\eta’+I_\zeta\zeta_r\zeta’=1$$
これに⑨を代入し、$L_\xi=I_\xi\omega_\xi$ などを使うと、
$$\frac{\rho}{\omega}(I_\xi\omega_\xi\xi’+I_\eta\omega_\eta\eta’+I_\zeta\omega_\zeta\zeta’)=1$$$$L_\xi\xi’+L_\eta\eta’+L_\zeta\zeta’=\frac{\omega}{\rho}=\sqrt{2K} -(1)$$
これは、角運動量 ${\bf L}$ と平面( $\xi’,\eta’,\zeta’$ )のスカラー積が一定であることを示しており、これらが常に垂直であることが分かります。
③を導く
原点 $O$ から剛体の接平面に下した垂線の長さを $h$ とすると、
$$L_\xi\xi’+L_\eta\eta’+L_\zeta\zeta’=|{\bf L}|h$$
であり、外力が働かない場合は角運動量 $L$ は一定になるため、(1) と合わせると $h$ も一定になります。これより、慣性楕円体の接平面は、空間に固定された不変面であることが分かります。
④を導く
$\overline{OR}$ が慣性主軸に一致する場合は慣性乗積は0になり、$\vec{\omega}\parallel{\bf L}$ であるから $\rho=h$ より、接点 $R$ は不動点となります。
慣性楕円体
慣性楕円体とは、剛体の慣性モーメントと慣性乗積を係数とする二次曲面(楕円体面)です。剛体に固定された座標系を( $\xi,\eta,\zeta$ )とすると、以下で表すことができます。
$$I_\xi\xi^2+I_\eta\eta^2+I_\zeta\zeta^2-2I_{\eta\zeta}\eta\zeta-2I_{\zeta\xi}\zeta\xi-2I_{\xi\eta}\xi\eta=1 -⑤$$
尚、慣性モーメント( $I_\xi$ など)と慣性乗積( $I_{\eta\zeta}$ など)は以下で定義されます。
$$I_\xi\equiv\sum_{i}m_i(\eta_i^2+\zeta_i^2) , I_{\eta\zeta}\equiv\sum_im_i\eta_i\zeta_i$$$$I_\eta\equiv\sum_{i}m_i(\zeta_i^2+\xi_i^2) , I_{\zeta\xi}\equiv\sum_im_i\zeta_i\xi_i$$$$I_\zeta\equiv\sum_{i}m_i(\xi_i^2+\eta_i^2) , I_{\xi\eta}\equiv\sum_im_i\xi_i\eta_i$$
とくに回転軸の慣性主軸に合わせると慣性乗積を0にできるため、慣性楕円体は以下で表されます。
$$I_\xi\xi^2+I_\eta\eta^2+I_\zeta\zeta^2=1 -⑥$$
このとき、固定点 $O$ を通る任意の回転軸 $OR$ のまわりの慣性モーメントを $I_{OR}$ は、$\rho=\overline{OR}$ とすると、
$$I_{OR}=\frac{1}{\rho^2} -⑦$$
また、剛体に外力が働かなければ、以下の運動エネルギー $K$ は一定となることが分かります。
$$K=\frac{1}{2}I_{OR}\omega^2 -⑧$$
⑤を導く
まず、剛体の原点 $O$ を通る任意の回転軸 $OR$ 周りの慣性モーメント $I_{OR}$ を求めます。
剛体内の任意の点 $P_i$( $\xi_i,\eta_i,\zeta_i$ )から $OR$ に下した垂線の交点を $Q_i$ とし、$OP_i$ と $OR$ の間の角を $\theta_i$ とします。$OR$ と座標軸( $\xi,\eta,\zeta$ )との各余弦($\mathrm{cos}$)を( $\alpha,\beta,\gamma$ )とすると、これらには以下の関係があります。
$$|OQ_i|=|OP_i|\cos{\theta_i}=\alpha\xi_i+\beta\eta_i+\gamma\zeta_i$$$$|OP_i|^2=\xi_i^2+\eta_i^2+\zeta_i^2$$$$\alpha^2+\beta^2+\gamma^2=1$$
これより、
$$|P_iQ_i|^2=|OP_i|^2\sin^2{\theta_i}=|OP_i|^2(1-\cos^2{\theta_i})$$$$=(\xi_i^2+\eta_i^2+\zeta_i^2)(\alpha^2+\beta^2+\gamma^2)-(\alpha\xi_i+\beta\eta_i+\gamma\zeta_i)^2$$$$=(\eta_i^2+\zeta_i^2)\alpha^2+(\xi_i^2+\zeta_i^2)\beta^2+(\xi_i^2+\eta_i^2)\gamma^2$$$$-2\beta\gamma\eta_i\zeta_i-2\gamma\alpha\zeta_i\xi_i-2\alpha\beta\xi_i^2\eta_i^2$$
$OR$ 軸回りの慣性モーメント $I_{OR}$ を計算すると、
$$I_{OR}=\sum_im_i|P_iQ_i|^2$$$$=I_\xi\alpha^2+I_\eta\beta^2+I_\zeta\gamma^2-2I_{\eta\zeta}\beta\gamma-2I_{\zeta\xi}\gamma\alpha-2I_{\xi\eta}\alpha\beta -(2)$$
ここで( $\alpha,\beta,\gamma$ )$\to$( $\xi,\eta,\zeta$ )とし、$1$ と置いたものが慣性楕円体の定義になります。
$$I_\xi\xi^2+I_\eta\eta^2+I_\zeta\zeta^2-2I_{\eta\zeta}\eta\zeta-2I_{\zeta\xi}\zeta\xi-2I_{\xi\eta}\xi\eta=1$$
⑦を導く
回転軸 $OR$ と慣性楕円体の交点を $R$( $\xi_r,\eta_r,\zeta_r$ )、$\rho=\overline{OR}$ とすると、
$$(\xi_r,\eta_r,\zeta_r)=(\rho\alpha,\rho\beta,\rho\gamma)$$
これを⑤に代入し、(2) を使うと、
$$\rho^2(I_\xi\alpha^2+I_\eta\beta^2+I_\zeta\gamma^2-2I_{\eta\zeta}\beta\gamma-2I_{\zeta\xi}\gamma\alpha-2I_{\xi\eta}\alpha\beta)=1$$$$\rho^2I_{OR}=1$$
これより⑦が得られます。
⑧を導く
角速度の成分を( $\omega_\xi,\omega_\eta,\omega_\zeta$ )として、慣性楕円体との交点を $R$( $\xi_r,\eta_r,\zeta_r$ )、$\rho=\overline{OR}$ とすると、
$$(\xi_r,\eta_r,\zeta_r)=\Big(\rho\frac{\omega_\xi}{\omega},\rho\frac{\omega_\eta}{\omega},\rho\frac{\omega_\zeta}{\omega}\Big) -⑨$$
これを⑥に代入し、剛体の運動エネルギー $K$ により、
$$(I_\xi\omega_\xi^2+I_\eta\omega_\eta^2+I_\zeta\omega_\zeta^2)\frac{\rho^2}{\omega^2}=1$$$$2K\frac{\rho^2}{\omega^2}=1$$
これに⑦を代入すると⑧が得られます。
$$K=\frac{1}{2}I_{OR}\omega^2$$