相転移
相とは、物質の中の境界面を持つ均質な部分を指します。一般には、固相(固体)、液相(液体)、気相(気体)などが知られていますが、同一物質の固相にも複数の相(物性変化)を持つことが知られています。
相転移(phase transition)とは、ある相から別の相に移ることです。相転移は、転移により起こる種々の量の不連続の度合いによって分類されます。
第1次相転移
第1次相転移(第1種相転移)では、蒸発熱や融解熱が発生し、体積 $V$(密度)やエントロピー $S$ が不連続になります。2つの相が平衡状態にある場合、自由エンタルピー(ギブス関数)$G$ は両相間で連続になります。
$$G_1(T,p)=G_2(T,p) -①$$
体積とエントロピーは自由エンタルピーの1次の微係数なので、第1次相転移は自由エンタルピーの1次の微係数が不連続となる相転移と考えることができます。
$$V=\Big(\frac{\partial G}{\partial p}\Big)_T$$$$S=-\Big(\frac{\partial G}{\partial T}\Big)_p$$
第1次相転移では、クラウジウス・クラペイロンの式が成り立ちます。
第2次相転移
第2次相転移(第2種相転移)では、体積 $V$(密度)とエントロピー $S$ が連続になります。2つの相が平衡状態にある場合、体積とエントロピーは両相間で以下の関係にあります。
$$V_1(T,p)=V_2(T,p) -②$$$$S_1(T,p)=S_2(T,p) -②$$
2次以上の高次の相転移は、自由エンタルピーの高次の微係数が不連続となる相転移と考えることができます。2次以上の高次の相転移では、エーレンフェストの式が成り立ちます。
クラウジウス・クラペイロンの式
クラウジウス・クラペイロンの式とは、第1次相転移における、物質がある温度で気液平衡の状態にあるときの蒸気圧と、蒸発に伴う体積の変化と蒸発熱を関係を表す式です。クラウジウス・クラペイロンの式は以下で表されます。
$$\frac{dp}{dT}=\frac{\Delta H}{T\Delta V} -③$$
ここで、$\Delta H$ はエンタルピーの変化(蒸発熱)を表します。
③を導く
①について、温度と圧力の微小変化を取ると、
$$G_1(T+dT,p+dp)=G_2(T+dT,p+dp)$$
これと①との差分を取ると、
$$\Big(\frac{\partial G_1}{\partial p}\Big)_Tdp+\Big(\frac{\partial G_1}{\partial T}\Big)_pdT=\Big(\frac{\partial G_2}{\partial p}\Big)_Tdp+\Big(\frac{\partial G_2}{\partial T}\Big)_pdT$$
自由エンタルピーの定義より、
$$V_1dp-S_1dT=V_2dp-S_2dT$$$$\frac{dp}{dT}=\frac{S_1-S_2}{V_1-V_2}=\frac{\Delta S}{\Delta V}$$
液相から気相への蒸発熱はエンタルピーで表すことができるため、
$$T\Delta S=\Delta Q=\Delta H$$
③が得られることが分かります。
$$\frac{dp}{dT}=\frac{\Delta H}{T\Delta V} \to③$$
エーレンフェストの式
エーレンフェストの式とは、2次以上の相転移における、定圧比熱、熱膨張率、等温圧縮率などの関係を表す式です。エーレンフェストの式は以下で表されます。
$$\Delta C_p=TV\frac{(\Delta\beta)^2}{\Delta\kappa} -④$$
ここで、定圧比熱 $C_p$ 、体積膨張率 $\beta$ 、圧縮率 $\kappa$ は以下で表されます。
$$C_p\equiv\Big(\frac{\delta Q}{dT}\Big)_p=T\Big(\frac{\partial S}{\partial T}\Big)_p -⑤$$$$\beta\equiv\frac{1}{V}\Big(\frac{\partial V}{\partial T}\Big)_p -⑥$$$$\kappa\equiv-\frac{1}{V}\Big(\frac{\partial V}{\partial p}\Big)_T -⑦$$
④を導く
②について、温度と圧力の微小変化を取ると、
$$V_1(T+dT,p+dp)=V_2(T+dT,p+dp)$$$$S_1(T+dT,p+dp)=S_2(T+dT,p+dp)$$
これと②との差分を取ると、
$$\Big(\frac{\partial V_1}{\partial p}\Big)_Tdp+\Big(\frac{\partial V_1}{\partial T}\Big)_pdT=\Big(\frac{\partial V_2}{\partial p}\Big)_Tdp+\Big(\frac{\partial V_2}{\partial T}\Big)_pdT -(1)$$$$\Big(\frac{\partial S_1}{\partial p}\Big)_Tdp+\Big(\frac{\partial S_1}{\partial T}\Big)_pdT=\Big(\frac{\partial S_2}{\partial p}\Big)_Tdp+\Big(\frac{\partial S_2}{\partial T}\Big)_pdT -(2)$$
(1)について、⑥と⑦を使うと、
$$\Big[\Big(\frac{\partial V_1}{\partial p}\Big)_T-\Big(\frac{\partial V_2}{\partial p}\Big)_T\Big]dp=-\Big[\Big(\frac{\partial V_1}{\partial T}\Big)_p-\Big(\frac{\partial V_2}{\partial T}\Big)_p\Big]dT$$$$\frac{dp}{dT}=\frac{\beta_1-\beta_2}{\kappa_1-\kappa_2}=\frac{\Delta\beta}{\Delta\kappa} -(3)$$
(2)について、マクスウェルの関係式と⑤を使うと、
$$-\Big(\frac{\partial V_1}{\partial T}\Big)_pdp+\frac{C_{p1}}{T}dT=-\Big(\frac{\partial V_2}{\partial T}\Big)_pdp+\frac{C_{p2}}{T}dT$$$$\Big[\Big(\frac{\partial V_1}{\partial T}\Big)_p-\Big(\frac{\partial V_2}{\partial T}\Big)_p\Big]dp=\frac{C_{p1}-C_{p2}}{T}dT$$$$\frac{dp}{dT}=\frac{C_{p1}-C_{p2}}{TV(\beta_1-\beta_2)}=\frac{\Delta C_p}{TV\Delta\beta} -(4)$$
最後は⑥を利用しています。そして、(3)と(4)より⓸が得られます。
$$\Delta C_p=TV\frac{(\Delta\beta)^2}{\Delta\kappa} \to④$$