熱力学ポテンシャル
熱力学ポテンシャル(熱力学関数)とは、系の平衡状態での熱力学的性質の情報を全て持つ示量性状態量です。内部エネルギー($U$)やエントロピー($S$)などが該当します。
内部エネルギー
内部エネルギー $U(S,V,N_i)$ は示量変数であるため、全体は各部分の和で表すことができます。尚、$V$ は体積、$N_i$ は物質量を表します。
$$U(\lambda S,\lambda V,\lambda N_i)=\lambda U(S,V,N_i)$$
また、内部エネルギーは完全微分形に展開できるため、熱力学第1法則より、
$$dU=\Big(\frac{\partial U}{\partial S}\Big)dS+\Big(\frac{\partial U}{\partial V}\Big)dV+\sum_i\Big(\frac{\partial U}{\partial N_i}\Big)dN_i -①$$
$$\Big(\frac{\partial U}{\partial S}\Big)_{\bar{S}}=T , \Big(\frac{\partial U}{\partial V}\Big)_{\bar{V}}=-p -②$$$$\Big(\frac{\partial U}{\partial N_i}\Big)_{\bar{N}_i}=\mu_i$$
ここで、$T$ は温度、$p$ は圧力、$\mu_i$ は化学ポテンシャルです。偏微分のバー($\bar{S}$ など)はその変数以外を一定にすることを表しています。
また、定積比熱は $\delta Q=dU+pdV$ より以下で表されます。
$$C_V\equiv\Big(\frac{\delta Q}{\partial T}\Big)_V=\Big(\frac{dU+pdV}{\partial T}\Big)_V=\Big(\frac{\partial U}{\partial T}\Big)_V$$
エントロピー
エントロピー $S(U,V,N_i)$ は示量変数であるため、全体は各部分の和で表すことができます。尚、$V$ は体積、$N_i$ は物質量を表します。
$$S(\lambda U,\lambda V,\lambda N_i)=\lambda S(U,V,N_i)$$
また、エントロピーは完全微分形に展開できるため、熱力学第1法則より、
$$dS=\Big(\frac{\partial S}{\partial U}\Big)dU+\Big(\frac{\partial S}{\partial V}\Big)dV+\sum_i\Big(\frac{\partial S}{\partial N_i}\Big)dN_i$$
$$\Big(\frac{\partial S}{\partial U}\Big)_{\bar{S}}=\frac{1}{T} , \Big(\frac{\partial S}{\partial V}\Big)_{\bar{V}}=\frac{p}{T}$$$$\Big(\frac{\partial S}{\partial N_i}\Big)_{\bar{N}_i}=-\frac{\mu_i}{T}$$
定積比熱と定圧比熱は $\delta Q=TdS$ より以下で表されます。
$$C_V\equiv\Big(\frac{\delta Q}{\partial T}\Big)_V=T\Big(\frac{\partial S}{\partial T}\Big)_V$$$$C_p\equiv\Big(\frac{\delta Q}{\partial T}\Big)_p=T\Big(\frac{\partial S}{\partial T}\Big)_p$$
ルジャンドル変換
ルジャンドル変換は、関数の独立変数の役割りを換える働きをします。ある関数 $\Phi(x,y)$ が完全微分形で表される場合
$$d\Phi=\Big(\frac{\partial\Phi}{\partial x}\Big)dx+\Big(\frac{\partial\Phi}{\partial y}\Big)dy\equiv Xdx+Ydy$$
新しい関数を $\Psi\equiv\Phi-yY$ で定義し、両辺を微分すると、以下の式が得られます。
$$d\Psi=d\Phi-ydY-Ydy$$$$=Xdx-ydY$$
このように、ルジャンドル変換により、$\Phi(x,y)\to\Psi(x,Y)$ のように独立変数を入れ替えることができます。
ルジャンドル変換を使って、他の熱力学ポテンシャルを導きます。
エンタルピー
エンタルピー($H$)は、以下の式により定義されます。
$$H(S,p,N_i)\equiv U+pV$$
この式の両辺の微分をとり、①を代入すると、以下の式になります。
$$dH=TdS+Vdp+\sum_i\mu_idN_i$$
$$\Big(\frac{\partial H}{\partial S}\Big)_{\bar{S}}=T , \Big(\frac{\partial H}{\partial p}\Big)_{\bar{p}}=V -③$$$$\Big(\frac{\partial H}{\partial N_i}\Big)_{\bar{N}_i}=\mu_i$$
エンタルピーは、エネルギーの一種で、等圧条件下での熱量を表します。熱は状態量ではありませんが、エンタルピーは状態量となります。例えば、等圧条件下の系が外部に熱を出す(放熱する)と、エンタルピーが下がり、外部から熱を受け取る(加熱する)と、エンタルピーが上がります。
また、定圧比熱は $\delta Q=dU+pdV$ より以下で表されます。
$$C_p\equiv\Big(\frac{\delta Q}{\partial T}\Big)_p=\Big(\frac{dU+pdV+Vdp}{\partial T}\Big)_p=\Big(\frac{\partial H}{\partial T}\Big)_p$$
自由エネルギー
自由エネルギー(ヘルムホルツの自由エネルギー)は、以下の式により定義されます。
$$F(T,V,N_i)\equiv U-TS$$
この式の両辺の微分をとり、①を代入すると、以下の式になります。
$$dF=-SdT-pdV+\sum_i\mu_idN_i$$
$$\Big(\frac{\partial F}{\partial T}\Big)_{\bar{T}}=-S , \Big(\frac{\partial F}{\partial V}\Big)_{\bar{V}}=-p ‐④$$$$\Big(\frac{\partial F}{\partial N_i}\Big)_{\bar{N}_i}=\mu_i$$
自由エンタルピー
自由エンタルピー(ギブスの自由エネルギー)は、以下の式により定義されます。
$$G(T,p,N_i)\equiv H-TS$$
この式の両辺の微分をとり、①を代入すると、以下の式になります。
$$dG=-SdT+Vdp+\sum_i\mu_idN_i$$
$$\Big(\frac{\partial G}{\partial T}\Big)_{\bar{T}}=-S , \Big(\frac{\partial G}{\partial p}\Big)_{\bar{p}}=V -⑤$$$$\Big(\frac{\partial F}{\partial N_i}\Big)_{\bar{N}_i}=\mu_i$$
グランドポテンシャル
グランドポテンシャルは、以下の式により定義されます。
$$\Omega(T,V,\mu_i)\equiv F-\mu_iN_i$$
この式の両辺の微分をとり、①を代入すると、以下の式になります。
$$d\Omega=-SdT+Vdp-\sum_iN_id\mu_i$$
$$\Big(\frac{\partial\Omega}{\partial T}\Big)_{\bar{T}}=-S , \Big(\frac{\partial\Omega}{\partial p}\Big)_{\bar{p}}=V$$$$\Big(\frac{\partial\Omega}{\partial\mu_i}\Big)_{\bar{\mu}_i}=-N_i$$
マクスウェルの関係式
マクスウェルの関係式とは、熱力学変数の間に成り立つ関係式で、それぞれ②③④⑤から以下の関係が得られます。
$$\Big(\frac{\partial p}{\partial S}\Big)_V=-\Big(\frac{\partial T}{\partial V}\Big)_S$$$$\Big(\frac{\partial V}{\partial S}\Big)_p=\Big(\frac{\partial T}{\partial p}\Big)_S$$$$\Big(\frac{\partial S}{\partial V}\Big)_T=\Big(\frac{\partial p}{\partial T}\Big)_V$$$$\Big(\frac{\partial S}{\partial p}\Big)_T=-\Big(\frac{\partial V}{\partial T}\Big)_p$$