概要
三論宗は、インド中観派の龍樹の「中論」「十二門論」と、その弟子提婆の「百論」を合わせた「三論」を所依とする宗派で、7世紀の中国で成立しました。日本へは7世紀に伝わり、南都六宗の1つとなっています。
- 時代:7世紀~
- 宗祖:吉蔵(きちぞう)
- 所依:龍樹「中論」「十二門論」、提婆「百論」
唯識論は、「空」を唱える事から空宗とも呼ばれています。上記の三論に加え、「大智度論」を含めて四論とすることもあります。三論宗はその後、天台宗や華厳宗などの陰に隠れ、学問としてのみ存在するようになりました。
日本の三論宗
日本の三論宗は、625年に高句麗の僧の慧灌が伝えた元興寺流、智蔵が入唐して伝えた法隆寺の空宗、701年に道慈が伝えた大安寺流の3つの系統があります。奈良時代には南都六宗の1つとして栄えました。
教義
破邪顕正
破邪(はじゃ)とは、誤った見解(邪見)を排斥(破斥)するという意味です。その対象となるのは、次の4つの有所得見(あるものを真理と思い込む見解)です。
- 外道実我之邪見
外道の実我(じつが)が存在するとする見解。 - 毘曇実有之執見
有部の三世実有(さんぜじつう)、法体恒有(ほったいごうう)の見解。 - 成実偏空之情見
成実宗の人法二空の見解。 - 有所得大乗見解
大乗教の非有非空の中道を真理とする見解。
顕正(けんしょう)とは、破邪そのものであり、有所得の邪見が全て破斥され尽くされれば無所得の悟りが得られると考えられおり、それは言葉で言い表すことができない境地とされています。
成仏論
全ての衆生は本来、仏であり自然に悟っているので、そこには迷いも悟りもない。そのため、三論宗では成仏と不成仏を論ずることはできないと考えます。
成仏と不成仏を論ずるのは、差別の面からものを見る仮名門の立場であり、衆生の能力に差があるために成仏にも遅速が生じると考えます。早く成仏する者は一念で成仏し、遅く成仏する者は三祇(無限の時間)で成仏します。
八不
八不とは、人間の持つ8つの迷いを破斥するため説かれたもので、全ての事物の本質を言い表した不生・不滅・不断・不常・不一・不異・不去・不来です。
つまり、生まれることもなく(不生)、無くなることもなく(不滅)、変わるものでもなく(不断)、変わらないものでもなく(不常)、同じものでもなく(不一)、異なるものでもなく(不異)、去ることもなければ(不去)、来ることもない(不来)と説きます。
四種釈義
四種釈義(ししゅしゃくぎ)とは、経論を解釈する方法です。
- 依妙(えみょう)釈義
言葉通りに解釈する方法です。 - 因縁釈義
他の法を利用し、反面の観点から意味を明らかにする方法です。 - 見道(けんどう)釈義
見道の悟りの見地から、一切の事柄を解釈する方法です。 - 無方(むほう)釈義
自由自在に一切の事柄をもって、1つの事柄を解釈する方法です。
三転法輪
三論宗では、以下の三転法輪で仏が一代で説いた全ての教えを収めることができると考えます。
- 根本法輪
仏が自ら内に体得した真理(自内証)をそのまま説いた教えで「華厳経」に相当します - 枝末法輪
「阿含経」から「般若経」に至るまでの教えに相当します - 摂末帰本法
枝末の三乗経を合わせて根本の一仏乗に帰せしめる教えで「法華経」に相当します