スレイター行列式とは、フェルミ粒子からなる多粒子系の波動関数を表すときに使われる行列式です。
2粒子系のスレイター行列式
フェルミ粒子は、1つの量子状態に1つの粒子しか存在できず、全系の波動関数は任意の粒子の交換に対し符号を変える(反対称)という特徴を持ちます。2粒子のフェルミ粒子の波動関数は以下のように表すことがで、
$$\Phi({\bf r}_1,{\bf r}_2)=\frac{1}{\sqrt{2}}\Big(\phi_1({\bf r}_1)\phi_2({\bf r}_2)-\phi_1({\bf r}_2)\phi_2({\bf r}_1)\Big) -①$$
これを行列式で表すと以下になります。この行列式をスレイター行列式と呼びます。
$$\Phi({\bf r}_1,{\bf r}_2)=\frac{1}{\sqrt{2}}\left|\begin{array}{ccc}
\phi_1({\bf r}_1) & \phi_1({\bf r}_2) \\
\phi_2({\bf r}_1) & \phi_2({\bf r}_2) \end{array}\right|$$
行列式の性質より、フェルミ粒子系の重要な特徴が導かれます。
- 2つの粒子を入れ替えると符号は反転する。
$$\Phi({\bf r}_1,{\bf r}_2)=-\Phi({\bf r}_2,{\bf r}_1)$$ - 2つの粒子が同じ量子状態をもてない。
$$\Phi({\bf r}_1,{\bf r}_1)=0$$
①を導く
同種の粒子の場合、$\phi_1({\bf r}_1)\phi_2({\bf r}_2)$ と $\phi_1({\bf r}_2)\phi_2({\bf r}_1)$ はどちらもシュレディンガー方程式の解になるため、解は一般的に以下で表されます。
$$\Phi({\bf r}_1,{\bf r}_2)=C_1\phi_1({\bf r}_1)\phi_2({\bf r}_2)+C_2\phi_1({\bf r}_2)\phi_2({\bf r}_1)$$
ここで、${\bf r}_1$ と ${\bf r}_2$ を入れ替えると、
$$\Phi({\bf r}_2,{\bf r}_1)=C_1\phi_1({\bf r}_2)\phi_2({\bf r}_1)+C_2\phi_1({\bf r}_1)\phi_2({\bf r}_2)$$
これらは、フェルミ粒子の性質より以下の関係が成り立つため、
$$\Phi({\bf r}_1,{\bf r}_2)=-\Phi({\bf r}_2,{\bf r}_1)$$
以下の関係が得られます。
$$C_1=-C_2$$
さらに、規格化条件より
$$\int\Phi^*({\bf r}_1,{\bf r}_2)\Phi({\bf r}_1,{\bf r}_2)d{\bf r}_1d{\bf r}_2$$$$=|C_1|^2+|C_2|^2=1$$
が得られるため、これらより①の係数を求めることができます。
$$C_1=-C_2=\frac{1}{\sqrt{2}}$$
N粒子系のスレイター行列式
$N$ 個のフェルミ粒子の系の波動関数は以下になります。$N$ 個の粒子の並べ方は $N!$ 通りあり、この数の関数が縮退していることになります。
$$\Phi({\bf r}_1,{\bf r}_2,\cdots)=\frac{1}{\sqrt{N!}}\left|\begin{array}{ccc}
\phi_1({\bf r}_1) & \phi_2({\bf r}_1) & \cdots \\
\phi_1({\bf r}_2) & \phi_2({\bf r}_2) & \cdots \\
\cdots & \cdots & \cdots \end{array}\right| -②$$
ここまでは電子のスピンを考慮していませんが、スピン座標を $\sigma_j$ として、改めて
$$\phi({\bf r}_j) \to \phi({\bf r}_j,\sigma_j)\equiv\phi(\tau_j)$$
と置き換えると、$N$ 個のスレイター行列式は以下のように表されます。
$$\Phi(\tau_1,\tau_2,\cdots)=\frac{1}{\sqrt{N!}}\left|\begin{array}{ccc}
\phi_1(\tau_1) & \phi_2(\tau_1) & \cdots \\
\phi_1(\tau_2) & \phi_2(\tau_2) & \cdots \\
\cdots & \cdots & \cdots \end{array}\right| -③$$
②を導く
多粒子系のシュレディンガー方程式は以下で表されます。
$$H\Phi({\bf r}_1,{\bf r}_2,\cdots)=E\Phi({\bf r}_1,{\bf r}_2,\cdots) -④$$$$\int\cdots\int|\Phi({\bf r}_1,{\bf r}_2,\cdots)|^2d{\bf r}_1d{\bf r}_2\cdots=1$$
特に、同種の粒子でかつ相互作用がない場合のハミルトニアンは、次のように分解することができるため、
$$H=\sum_{j=1}^NH_j$$$$H_j\equiv-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla_j^2+V({\bf r}_j)$$
④については次の方程式を解けばよいことになります。
$$\Big(-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2+V({\bf r})\Big)\phi({\bf r})=\epsilon\phi({\bf r})$$
このとき、固有値を $\epsilon_1,\epsilon_2,\cdots$、固有関数を $\phi_1,\phi_2,\cdots$ とすると、全系の波動関数は各粒子の波動関数の積で表されます。
$$\Phi({\bf r}_1,{\bf r}_2,\cdots)=\phi_1({\bf r}_1)\phi_2({\bf r}_2)\cdots\phi_j({\bf r}_j)\cdots$$$$E=\epsilon_1+\epsilon_2+\cdots+\epsilon_j+\cdots$$
同種粒子は区別がつかないため、粒子を入れ替えても④の解になります。