概要
バラモン教(Brahmanism)は、「ヴェーダ」を聖典とし、天・地・太陽・風・火などの自然神を崇拝し、司祭階級が行う祭式を中心に信仰されています。バラモン教は「ヴェーダの宗教」とも呼ばれています。
バラモン教は古代のヒンドゥー教であり、バラモン教にインド各地の民族宗教や民間信仰が融合しながら徐々に形成されてきた多神教が、現在のヒンドゥー教と考えられます。
尚、バラモン(Brahmin)とは司祭階級のことで、日本では音訳された漢語「婆羅門」の音読みで呼ばれています。バラモンは祭祀を通じて神々と接する役割を持ち、宇宙の根本原理であるブラフマンに近い存在とされています。
教義
「ヴェーダ」に始まる宇宙の根本原理の探求は、ウパニシャッドにおいて体系化され、宇宙の根本原理としてのブラフマン(梵:ぼん)と個人存在の本体としてのアートマン(我:が)が想定され、両者は同一であるとする梵我一如の思想が形成されました。
前3~前4世紀までにヴェーダの6つの補助学(ベーダーンガ)である音声学、祭事学、文法学、語源学、韻律学、天文学が確立され、紀元前後には六派哲学が生まれました。
業と因果応報
業(カルマ)は意志による心身の活動を意味します。因果応報とは、善(または悪)の業を作ると、因果の道理によってそれ相応の楽(または苦)の報い(果報)が生じることを指します。
つまり、一切が自らの原因によって生じた結果であると説いており、善因楽果・悪因苦果・自業自得などと表現されます。
転生輪廻
転生輪廻とは、この世の生を終えた後に、次の世に生まれ変わることで、過去生での行為(因果)によって現世の境遇が決まり(応報)、現世での行為(因果)によって来世の境遇が決まり(応報)、「車輪が廻る」ように永遠に繰り返されると考えられています。
特に六道輪廻とは、あらゆる生物が六道(地獄道・餓鬼道・畜生道・修羅道・人間道・天上道)を生まれ変わり、何者もこの輪廻から逃れることはできないとする考え方です。
解脱
解脱とは、インドにおいて宗教の最高目標とされており、サマーディ(三昧)に入定し、輪廻の迷いの境界から脱することを指します。
主な神々
最高神は一定しておらず、儀式ごとにその崇拝の対象が異なります。
- ヴィシュヌ神:世界維持の神・慈愛の神(毘盧遮那)
- シヴァ神:創造と破壊の神(大自在天)
- ブラフマー神:神学的哲学の根元(梵天、大日如来)
- インドラ:雷神・天空神(帝釈天)
四姓制
四姓制(バルナ制またはカースト制)とは身分制度のことで、司祭階級であるバラモン(ブラーフマナ)を最上位に置き、以下の順に厳格な身分制度が確立されました。
- バラモン(司祭階級)
- クシャトリヤ(戦士・王族階級)
- ヴァイシャ(庶民階級)
- シュードラ(奴隷階級)
四住期
四住期(アーシュラマ)とは、解脱に向かって人生を4つの住期に分け、それぞれの段階ごとに目標と義務を設定したものです。尚、受胎から幼少期までは四住期に含まれません。また、シュードラと女性には適用されません。
- 学生期:師匠に弟子入りして聖典ヴェーダを学習する
- 家住期:家業に務め結婚して家族を養う、先祖の祭祀を行う
- 林住期:孫の誕生後は家を離れて質素で禁欲的な生活を営む
- 遊行期:住まいを捨てて放浪し、解脱を目指す
ヴェーダ
紀元前10世紀頃から紀元前5世紀頃にかけてインドで編纂された一連の宗教文書の総称で、当時のアーリヤ人部族の神々への讃歌と祭式をまとめたものがヴェーダです。ヴェーダとは知識の意味を持ちます。
ヴェーダの構成
インドの聖典はシュルティ(天啓)とスムリティ(聖伝)に分けられ、ヴェーダはシュルティに属します。広義のヴェーダは、以下の4部に分類されます。
- サンヒター(本集)
マントラ(讃歌、歌詞、祭詞、呪詞)により構成される - ブラーフマナ(祭儀書、梵書)
散文形式、祭式の手順や神学的意味を説明する - アーラニヤカ(森林書)
秘技、祭式の説明と哲学的な説明する - ウパニシャッド(奥義書)
哲学的な部分、インド哲学の源流となる
上記の4部のそれぞれが4つの種類に分かれますが、狭義のヴェーダは、サンヒター(本集)の4種類のヴェーダを指します。
- リグ・ヴェーダ
神々への韻文讃歌(リチ)集、古い神話が収録されている - サーマ・ヴェーダ
詠歌(サーマン)集、インド古典音楽の源流となる - ヤジュル・ヴェーダ
散文祭詞(ヤジュス)集、黒ヤジュルと白ヤジュルに分かれる - アタルバ・ヴェーダ
呪文集、他の3つに比べて成立が新しい