説一切有部とは

/仏教

概要

説一切有部(サルバースティバーディン)とは、紀元前1世紀に上座部から分派した、部派仏教の中で最も優勢な部派です。迦多衍尼子(かたえんにし)が「発智論」を著し、説一切有部の体系を大成したとされます。

説一切有部は、釈迦の教説を解釈・体系化する過程で、多くの解説書・注釈書を完成させました。これらはアビダルマ(阿毘達磨)と呼ばれ、「発智論」のほか、「六足論」「大毘婆沙論」は説一切有部の教義を述べた代表的な論書となっています。

説一切有部は、釈迦の教説を忠実に解釈しようと努めまたた結果、出家中心主義となり、煩瑣にして膨大な体系は一般人の近づき難く、大乗仏教の興起にもつながりました。しかし、7世紀まで北インドや中央アジアに影響力を持ったとされています。

教義

主体的な我(アートマン)は空ですが、現象世界を構成する法(ダルマ)は三世に渡って実在するとしました。

法体恒有・三世実有

法体恒有(ほったいごうう)とは、あらゆる事象(諸法)を構成する基としての法体(ダルマ)は滅することがないこと、三世実有(さんぜじつう)とは、その法体は過去・現在・未来の三世に渡って存在し続けることを意味します。

諸法を構成する基本要素として70ほどの法体を想定し、それは過去・未来・現在に渡って不変に実在し、我々がそれらを認識できるのは現在の一瞬間であるとされます。この世の森羅万象は全て常に流動変化し、一瞬たりとも同一性を保持することができないと考えます。

心心所相応説

心心所相応(しんしんじょそうおう)とは、46の心的要素(心所、心の構成要素や機能)が、心の基体と結合し(相応、チッタサンプラユクタ)、心理現象が現れるとする考え方です。また、心不相応行法(チッタビプラユクタ・サンスカーラダルマ)の存在を認めています。

また、極端な善悪の行為を成したとき、人間の身体に一生の間、その影響を与え続ける無表色(アビジュニャプティルーパ)が生ずると説きました。無表色とは、五位の色法の1つで、人間の行為に影響を及ぼす習性とされています。

業感縁起

業感縁起(ごうかんえんぎ)とは、人間の苦の直接の原因を業(カルマ)とし、その究極の原因を煩悩(惑)とする考え方です。人間の存在を「惑→業→苦」の連鎖と捉えています。

そのため、人間が苦から逃れ、涅槃の境地を得る(悟り)ためには、煩悩を断ずればよいと説きます。すなわち、四諦の理を繰り返し考察(四諦現観)することで智慧が生じ、この智慧によって煩悩を断ずると考えました。

有余涅槃・無余涅槃

有余涅槃(うよねはん)とは、まだ肉体が存する阿羅漢の境地で、肉体的苦があるので不完全とみなしています。無余涅槃(むよねはん)とは、阿羅漢の死後の完全な涅槃です。

釈迦(仏陀)は格段に優れた人格者とみなし、一般の修行者は決して仏陀の境地には達せず、阿羅漢までしかなれないとされました。

五位

五位(ごい)とは、あらゆる事象を5種類に分類して、人間の精神や物質など全ての現象の法(ダルマ)をまとめたものです。五法または五品(ごほん)などとも呼ばれます。

五位は、色法(物質)、心法(心の作用の主体)、心所法(心の作用)、心不相応行法(心と物質の間の関係)、無為法(因縁により作り出されないもの)を指します。

 

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