パーカー理論
パーカー理論とは、太陽大気(プラズマ)の平衡について述べた理論です。太陽大気の動的平衡により、太陽風の存在を予言したことでも知られています。
パーカー理論では、以下の流体の運動方程式を使います。ここで流体とは電離した水素イオンガスで、$N$ は単位体積当たりの粒子数、$m$ は質量、$v$ は速度、$T$ は温度、$M$ は太陽の質量、$G$ は万有引力定数、$k$ はボルツマン係数です。
$$\rho\frac{\partial{\bf v}}{\partial t}+\rho({\bf v}\cdot\nabla){\bf v}=-\nabla p+\rho{\bf K} -①$$
$$\rho=Nm$$$$p=NkT$$$$K=-\frac{GM}{r^2}$$
静的平衡の場合
静的平衡の場合、太陽大気の密度勾配による外向きの力(第1項)と、重力による内向きの力(第2項)が釣り合っているため、
$$\frac{d}{dr}(NkT)+\frac{GMmN}{r^2}=0 -②$$
この両辺を $r$ で積分すると以下になります(③を導く)。$a$ は太陽の半径、$N_a$ と $T_a$ は $r=a$ での値になります。
$$NT=N_aT_a\exp{\Big(-\frac{GMm}{k}\int_a^r\frac{dr}{r^2T}\Big)} -③$$
$T$ は $r$ の関数で、$r$ が大きくなると $T$ は減少しますが、
- $T$ の減少が $1/r$ より急である場合
$r\to\infty$ で右辺の積分は無限大になるため、$NT\to0$ となります。この場合、太陽プラズマは静的平衡が保たれます。 - $T$ の減少が $1/r$ より緩い場合
$r\to\infty$ で右辺の積分は有限になるため、$NT\gt0$ となります。この場合、静的平衡は保たれず、太陽プラズマは外向きに速度(太陽風)を持つ動的平衡が成り立ちます。
動的平衡の場合
動的平衡を仮定すると、①は以下のように表されます。第1項は運動量の移動による内向きの力を表します。動的平衡を仮定しているため、①の左辺第1項の時間微分は0になります。
$$Nmv\frac{dv}{dr}+\frac{d}{dr}(NkT)+\frac{GMmN}{r^2}=0 -④$$
また、流体の質量の保存則に対応する式は以下になります。これは、ある立体角を単位時間に通過する粒子数が等しいことを表します。
$$Nvr^2=C(\mbox{一定}) -⑤$$
最終的に④は以下のように書き換えられます。ここで、音速を $c$、太陽表面($r=a$)での脱出速度を $u$ と置いています(⑥を導く)。
$$\Big(\frac{c^2}{v^2}-1\Big)\frac{dv}{dr}=\frac{au^2}{2vr^2}-\frac{2c^2}{rv} -⑥$$
$dv/dr\gt0$ であるため、⑥の両辺の符号は一致します。
$$v\lt c : r_c\lt\frac{au^2}{4c^2}$$$$v\gt c : r_c\gt\frac{au^2}{4c^2}$$
以上より、太陽から一定距離 $r_c$ 離れると、太陽風の速度が音速を超えることが分かります。この距離を具体的に計算すると、温度100万度での音速は 170km/s、太陽の脱出速度は 617km/s であるため、
$$r_c=\frac{au^2}{4c^2}\cong3.3a$$
これにより、太陽風は太陽半径の3.3倍の距離で音速を超えることが分かります。
導出
③を導く
②の両辺を( $a,r$ )の範囲で積分すると、
$$\int_a^r\frac{1}{NT}\frac{d(NT)}{dr}dr=-\frac{GMm}{k}\int_a^r\frac{dr}{r^2T}$$
左辺は、
$$\Big[\ln{(NT)}\Big]_a^r=\ln{\Big(\frac{NT}{N_aT_a}\Big)}$$
であるから、従って、
$$NT=N_aT_a\exp{\Big(-\frac{GMm}{k}\int_a^r\frac{dr}{r^2T}\Big)}$$
⑥を導く
⑤を④に代入して、$N$ を消します。
$$mv\frac{dv}{dr}+\frac{vr^2}{C}\frac{d}{dr}\Big(\frac{CkT}{vr^2}\Big)+\frac{GMm}{r^2}=0$$
次に音速 $c$ と、
$$c^2\sim\frac{p}{\rho}=\frac{kT}{m}$$
太陽表面での脱出速度 $u$ を代入すると、
$$\frac{1}{2}mu^2-\frac{GmM}{a}=0$$$$u^2=\frac{2GM}{a}$$
以下が得られます。
$$\frac{dv}{dr}+c^2r^2\frac{d}{dr}\Big(\frac{1}{vr^2}\Big)+\frac{au^2}{2vr^2}=0$$
これより⑥を得ることができます。