弦の世界面について、適当なパラメータ付けと制約条件を設けることで、相対論的弦の運動方程式は波動方程式に帰着します。
パラメータ付け
ここでは、以下の仮定を置きます。ここで、$P(\tau,\mu)$ は弦の運動量密度、$n_\mu$ は超平面の法線を表します。
- 弦の座標 $X(\tau,\mu)$ の線形結合は $\tau$ に等しい。
$$n_\mu X(\tau,\mu)\propto\tau$$ - 開弦の端点において $n\cdot P^\sigma=0$ とする。
静的ゲージを一般化した以下のようなパラメータ付けを行います。尚、開弦の場合 $\beta=2$ 、閉弦の場合 $\beta=1$ となります。
$$n\cdot X=\beta\alpha(n\cdot p)\tau -①$$$$n\cdot p=\frac{2\pi}{\beta}(n\cdot P^\tau) -②$$$$n\cdot P^\sigma=0 -③$$
また、$\alpha$ は勾配パラメータ、
$$\alpha=\frac{1}{2\pi T_0\hbar c}$$
$p$ は世界面上の保存量、
$$p^\mu(\tau)=\int P^{\tau\mu}(\tau,\sigma)d\sigma -④$$
そして、弦の運動量密度は以下になります。尚、以下は自然単位系($c=\hbar=1$)を使っています。
$$P^{\tau\mu}=-\frac{1}{2\pi\alpha}
\frac{(\dot{X}\cdot X’)X^{\mu’}-X’^2\dot{X}^\mu}{\sqrt{(\dot{X}\cdot X’)^2-\dot{X}^2X’^2}} -⑤$$$$P^{\sigma\mu}=-\frac{1}{2\pi\alpha}
\frac{(\dot{X}\cdot X’)\dot{X}^\mu-\dot{X}^2X^{\mu’}}{\sqrt{(\dot{X}\cdot X’)^2-\dot{X}^2X’^2}} -⑥$$
①の導出
④の両辺に $n$ のスカラー積をとって、$\tau$ で微分します。
$$\frac{d}{d\tau}(n\cdot p)=\int\frac{\partial}{\partial\tau}(n\cdot P^{\tau})d\sigma$$
運動方程式⑪を代入し、積分すると、仮定2より右辺は0になります。
$$\frac{d}{d\tau}(n\cdot p)=-\int\frac{\partial}{\partial\sigma}(n\cdot P^{\sigma})d\sigma=-\Big[n\cdot P^{\sigma}\Big]_{\sigma1}^{\sigma2}=0$$
従って、$n\cdot p$ は一定値になるため、仮定1と合せて次の関係式を仮定します。ここで、自然単位系を使うと、$\tau$ と $\sigma$ は無次元になります。
$$n\cdot X=\lambda(n\cdot p)\tau$$
尚、$\lambda$ は定数ですが、$\tau$ は単位を持たないため、距離を運動量で(速度を力で)割った次元($M^{-1}T$)を持つことが分かります。従って、$\lambda$ を以下のように置きます。
$$\lambda\sim\frac{c}{T_0}=2\pi\alpha\hbar c$$
自然単位系であるため、$\lambda=2\alpha$ で定義すると、開弦の場合の①が得られます。
$$n\cdot X=2\alpha(n\cdot p)\tau \to①$$
②の導出
⑤により、$P^\mu$ は $\sigma$ のパラメータの付け替えに対し、$d/d\sigma$ のように変換するため、以下のように表すことができます。
$$P^\tau(\tau,\sigma)=\frac{d\sigma’}{d\sigma}P^\tau(\tau,\sigma’)$$$$n\cdot P^\tau(\tau,\sigma)=\frac{d\sigma’}{d\sigma}n\cdot P^\tau(\tau,\sigma’)$$
$n\cdot P^\tau$ が $\sigma’$ に依存している場合、パラメータ付けにより、$n\cdot P^\tau$ が $\sigma$ に依存しないよう $\sigma$ を選ぶことができます。従って、次のように置くことができ、
$$a(\tau)\equiv n\cdot P^\tau(\tau,\sigma)$$
この両辺を $0\le\sigma\le\pi$ で積分すると、④より、
$$\pi a(\tau)=\int_0^\pi n\cdot P^\tau(\tau,\sigma)d\sigma=n\cdot p$$
これ上の式に代入すると、開弦の場合の②が求められます。
$$n\cdot P^\tau(\tau,\sigma)=\frac{n\cdot p}{\pi} \to②$$
③の導出
運動方程式⑪に対し $n$ のスカラー積をとると、
$$\frac{\partial}{\partial\tau}(n\cdot P^\tau)+\frac{\partial}{\partial\sigma}(n\cdot P^\sigma)=0$$
②により第1項は0になるため、
$$\frac{\partial}{\partial\sigma}(n\cdot P^\sigma)=0$$
仮定2により、開弦の端点で0になるため、少なくとも開弦では端点以外でも $n\cdot P^\sigma=0$ が成り立ちます。
制約条件
パラメータ付けにより、以下の制約条件が得られます。
$$\dot{X}\cdot X’=0 -⑦$$$$\dot{X}^2+X’^2=0 -⑧$$
⑦と⑧をまとめて次のように表すこともできます。
$$(\dot{X}\pm X’)^2=0$$
⑦の導出
⑥の両辺で $n$ とスカラー積をとり、
$$n\cdot P^{\sigma}=-\frac{1}{2\pi\alpha}
\frac{(\dot{X}\cdot X’)\partial_\tau(n\cdot X)-\dot{X}^2\partial_\sigma(n\cdot X)}{\sqrt{(\dot{X}\cdot X’)^2-\dot{X}^2X’^2}}$$
①より $\partial_\sigma(n\cdot X)=0$ であるから、
$$n\cdot P^{\sigma}=-\frac{1}{2\pi\alpha}
\frac{(\dot{X}\cdot X’)\partial_\tau(n\cdot X)}{\sqrt{(\dot{X}\cdot X’)^2-\dot{X}^2X’^2}}$$
一方、①より $\partial_\tau(n\cdot X)\ne0$ であり、③より $n\cdot P^\sigma=0$ であるため、
$$\dot{X}\cdot X’=0 \to⑦$$
⑧の導出
⑤に⑦を代入すると、
$$P^{\tau\mu}=\frac{1}{2\pi\alpha}
\frac{X’^2\dot{X}^\mu}{\sqrt{-\dot{X}^2X’^2}}$$
これを②に代入すると、
$$n\cdot p=\frac{1}{\beta\alpha}
\frac{X’^2(n\cdot\dot{X})}{\sqrt{-\dot{X}^2X’^2}}$$
①の両辺を $\tau$ で微分して $n\cdot\dot{X}=\beta\alpha(n\cdot p)$、これを代入すると、
$$1=\frac{X’^2}{\sqrt{-\dot{X}^2X’^2}}$$$$\dot{X}^2+X’^2=0 \to⑧$$
弦の波動方程式
制約条件により、弦の運動量密度は以下になります。
$$P^{\tau\mu}=\frac{1}{2\pi\alpha}\dot{X}^\mu -⑨$$$$P^{\sigma\mu}=-\frac{1}{2\pi\alpha}X^{\mu’} -⑩$$
$$\frac{\partial P^{\tau\mu}}{\partial\tau}+\frac{\partial P^{\sigma\mu}}{\partial \sigma}=0 -⑪$$
以下のような波動方程式として表すことができます。
$$\frac{\partial^2X^\mu}{\partial\tau^2}-\frac{\partial^2X^\mu}{\partial \sigma^2}=0$$
⑨と⑩の導出
⑦と⑧により、⑤と⑥の分母は以下になります。
$$\sqrt{(\dot{X}\cdot X’)^2-\dot{X}^2X’^2}=\sqrt{X’^2X’^2}=X’^2$$
これを⑤に代入すると⑨が得られ、
$$P^{\tau\mu}=-\frac{1}{2\pi\alpha}\frac{-X’^2\dot{X}^\mu}{X’^2}=\frac{1}{2\pi\alpha}\dot{X}^\mu \to⑨$$
⑥に代入し⑧を使うと⑩が得られます。
$$P^{\sigma\mu}=-\frac{1}{2\pi\alpha}
\frac{-\dot{X}^2X^{\mu’}}{X’^2}=-\frac{1}{2\pi\alpha}X^{\mu’} \to⑩$$