ローレンツ変換とは

/相対論

ローレンツ変換とは

ローレンツ変換とは、2つの慣性系(等速運動する系)の間の座標変換です。特殊相対性理論では、全ての慣性系において物理学の法則は変わらないとしているため、物理学の法則はローレンツ不変な形で記述される必要があります。

ローレンツ変換は、数学的には以下の値を不変にする変換として定義されます。$ds^2=0$ は原点を通る光錐を表し、$ds^2>0$ は光速より遅い運動の領域を表します。

$$ds^2=c^2t^2-x^2-y^2-z^2$$

話しを簡単にするため、時間軸 $t$ と $x$ 軸のみを考える場合、2つの座標 $S(t,x)$ と $S'(t’,x’)$ のローレンツ変換 $L$ は以下で表されます。

$$ \left(\begin{array}{cc} ct’ \\ x’ \end{array}\right) =L
\left(\begin{array}{cc} ct \\ x \end{array}\right)  -①$$$$L=\frac{1}{\sqrt{1-\beta^2}}\left(\begin{array}{cc}1 & \pm\beta \\ \pm\beta & 1\end{array}\right)$$$$\beta\equiv\frac{v}{c}$$

$S$ 系に対し速度 $v$ で運動する $S’$ 系を考えると、以下のように表されます。

$$\left(\begin{array}{cc} ct’ \\ x’ \end{array}\right) =\frac{1}{\sqrt{1-\beta^2}}\left(\begin{array}{cc}1 & -v/c \\ -v/c & 1\end{array}\right)
\left(\begin{array}{cc} ct \\ x \end{array}\right)$$$$t’=\frac{1}{\sqrt{1-\beta^2}}\Big(t-\frac{v}{c^2}x\Big)  -②$$$$x’=\frac{1}{\sqrt{1-\beta^2}}\Big(-vt+x\Big)  -③$$

これの逆変換 $L^{-1}$ は以下のように表されます。

$$\left(\begin{array}{cc} ct \\ x \end{array}\right) =\frac{1}{\sqrt{1-\beta^2}}\left(\begin{array}{cc}1 & v/c \\ v/c & 1\end{array}\right)
\left(\begin{array}{cc} ct’ \\ x’ \end{array}\right)$$$$t=\frac{1}{\sqrt{1-\beta^2}}\Big(t’+\frac{v}{c^2}x’\Big)  -④$$$$x=\frac{1}{\sqrt{1-\beta^2}}\Big(vt’+x’\Big)  -⑤$$

$L$ と $L^{-1}$ で $v$ の符号が逆になるのは、$S$ 系から見ると $S’$ 系は $v$ で運動しているように見えますが、$S’$ 系から見ると $S$ 系は $-v$ で運動しているように見えるためです。これら2つの座標系間の変換は相対性の関係にあります。

ローレンツ変換を導く

2つの座標間で、$ds^2=c^2t^2-x^2$が不変であることを行列で表すと以下になります。

$$ \left(\begin{array}{cc} ct’ & x’ \end{array}\right)
\left(\begin{array}{cc} 1 & 0 \\ 0 & -1 \end{array}\right)
\left(\begin{array}{cc} ct’ \\ x’ \end{array}\right)=
\left(\begin{array}{cc} ct & x \end{array}\right)
\left(\begin{array}{cc} 1 & 0 \\ 0 & -1 \end{array}\right)
\left(\begin{array}{cc} ct \\ x \end{array}\right)$$

この式に①を代入し、($t’,x’$)を消すと以下が得られます。

$$ L^t\left(\begin{array}{cc} 1 & 0 \\ 0 & -1 \end{array}\right) L=
\left(\begin{array}{cc} 1 & 0 \\ 0 & -1 \end{array}\right)  -(1)$$

この式を満たす変換 $L$ を以下で仮定し、

$$L\equiv\left(\begin{array}{cc}a & b \\ c & d \end{array}\right)
$$

(1)が成り立つためには、変換 $L$ は以下の形を持つことが分かります。

$$L=\left(\begin{array}{cc}a & \pm\sqrt{a^2-1} \\ \pm\sqrt{a^2-1} & a \end{array}\right)  -(2)$$

ここで、$S$ 系に対し速度 $v$ で運動する $S’$ 系を考えます。この時 $S$ 系の原点($x=0$)は、$S’$ 系から見ると、$-v$ で運動しているように見えます。

$$L\left(\begin{array}{cc} ct \\ 0 \end{array}\right)=
\left(\begin{array}{cc} ct’ \\ x’ \end{array}\right)=
\left(\begin{array}{cc} ct’ \\ -vt’ \end{array}\right)$$

これに (2) を代入すると、

$$act=ct’$$$$\pm ct\sqrt{a^2-1}=-vt’$$

これより、$a$ を求めると、ローレンツ変換は以下の形を持つことが分かります。

$$L=\frac{1}{\sqrt{1-\beta^2}}\left(\begin{array}{cc}1 & \pm\beta \\ \pm\beta & 1\end{array}\right)$$$$\beta\equiv\frac{v}{c}$$

ローレンツ変換の特徴

非相対論近似

光速に比べ十分に小さい場合($v\ll c$)、ローレンツ変換はガリレイ変換に近似され、

$$\lim_{v\ll c}L=\left(\begin{array}{cc}1 & \ 0 \\ 0 & 1\end{array}\right)$$

これより⓸と⑤は以下になります。

$$t=t’$$$$x=vt+x’$$

$S$ 系から見ると $S’$ 系の原点 $x’=0$ は、速度 $v$ で運動しているように見えます。

同時刻の相対性

②より、$S’$ 系の2つの時刻の差分をとります。

$$t’_2-t’_1=\frac{1}{\sqrt{1-\beta^2}}\left((t_2-t_1)-\frac{v}{c^2}(x_2-x_1)\right)$$

$S$ 系で $t_1=t_2$ が $S’$ 系では $t_1’\neq t_2’$ となります。これより、ある系で同時に起こっている事象が、別の系からは異なる時刻に見えてしまうことが分かります。

時間の遅れ

$S$ 系の時間間隔 $\Delta t=t_2-t_1$ を④を使って変換し、同じ位置 $x’_1=x’_2$ とすると、

$$\Delta t=t_2-t_1=\frac{1}{\sqrt{1-\beta^2}}\left((t’_2-t’_1)+\frac{v}{c^2}(x’_2-x’_1)\right)$$$$=\frac{t’_2-t’_1}{\sqrt{1-\beta^2}}=\frac{\Delta t’}{\sqrt{1-\beta^2}}$$

右辺の分母は1より小さいので、運動している系の時間は伸びて(遅れて)見えることが分かります。例えば、$S’$ 系が光速の約86%で運動している場合、$S$ 系の $\Delta t=10$ 秒は、$S’$ 系の $\Delta t’=5$ 秒程度に相当します。

尚、ローレンツ変換は相対的なので、$S’$ 系から見ると、運動している $S$ 系の時間は遅れて見えることになります。

ローレンツ収縮

$S$ 系の距離 $\Delta x=x_2-x_1$ を⑤を使って変換し、同じ時刻 $t’_1=t’_2$ とすると、

$$\Delta x=x_2-x_1=\frac{1}{\sqrt{1-\beta^2}}\left(v(t’_2-t’_1)+(x’_2-x’_1)\right)$$$$=\frac{x’_2-x’_1}{\sqrt{1-\beta^2}}=\frac{\Delta x’}{\sqrt{1-\beta^2}}$$

これより、運動している系を静止している系から見ると縮んで見えることが分かります。尚、これは進行方向である $x$ 軸のみで、それ以外の方向は変わりません。

光速の限界

$S$ 系に対して速度 $v$ で運動する $S’$ 系上での速度 $u$ の運動を考えます。非相対論では、$S$ 系から見たときの速度の合成は $V=v+u$ となりますが、ローレンツ変換ではそうはなりません。

$S$ 系から見える速度 $V$ は、④と⑤を使い $u\equiv x’/t’$ と置くと以下になります。

$$V=\frac{x}{t}=\frac{v+u}{1+vu/c^2}$$

例えば、$v$ と $u$ を光速の90%とします。非相対論で考えると、合成された速度は光速を超えます(光速の1.8倍)が、上の式で考えると、光速の99.4%程度にしかなりません。つまり、光の速度を超えることはできないことが分かります。

特殊相対性理論

相対性理論とは、互いに運動する座標系(観測者)から見ても、物理学の法則は変わらないとする原理(考え方)です。特殊相対性理論は、以下の2つの原理に基づいて、アインシュタインが1905年に発表しました。

  • 特殊相対性原理
  • 光速度不変の原理

特殊相対性原理とは、全ての慣性系において物理学の法則は変わらないとする原理です。これは、ガリレイの相対論と変わりません。特殊相対論にはもう1つ、光速度不変の原理が付け加わりました。

19世紀後半に、光の速度を測る実験が行われていました。その際、ガリレイ変換の速度の加算の考え方と同じように、光源の進行方向に発した光の速度は速くなる(逆方向は遅くなる)ことが予想されました。しかし、マイケルソン・モーリーの実験では予想に反し、”光の速度は不変”という結論になったのです。

ローレンツは1899年、この実験結果に基づき、新しい変換法則を発表しました。これを、ローレンツ変換と言います。このローレンツ変換は、マクスウェル方程式を不変に保つことが証明されてます。尚、ニュートンの運動方程式は不変ではありませんが、ローレンツ変換を満たす相対論的力学として拡張されました。

アインシュタイン自身はマイケルソン・モーリーの実験を知らなかったようですが、彼の思考実験により光速度が不変であることに気付いたようです。そして、ローレンツとは独立に、ローレンツ変換を導いたとされています。

 

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